研究課題/領域番号 |
22H00343
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石渡 晋太郎 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (00525355)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高圧合成 / 異常高原子価鉄酸化物 / ペロブスカイト型酸化物 / スピン電荷秩序 / フラストレーション |
研究実績の概要 |
本研究で着目したペロブスカイト型鉄酸化物SrFeO3は、異常高原子価のFe4+を内包しており、シンプルな立方晶構造をもつにもかかわらず、フラストレーションに起因した多彩なトポロジカルらせん磁性相をもつことが明らかになりつつある。また、SrFeO3の一部をLaで置換したSr2/3La1/3FeO3は、低温で長周期のスピン電荷秩序相が出現することが知られており、鉄酸化物におけるスピン・電荷カップリングという点で注目を集めた。このような背景を踏まえて初年度は、スピンフラストレーションを内包するシンプルな立方格子上において、リガンドホールを介したスピンと電荷の絡み合いに起因した新奇量子相を発見することを目的とし、ペロブスカイト型異常高原子価鉄酸化物 (Sr1-xBax)2/3La1/3FeO3の高圧合成と物性測定・解析を進めた。 ペロブスカイトのAサイト置換によるバンド幅制御を通じた新奇スピン電荷秩序状態を探索すべく、 (Sr1-xBax)2/3La1/3FeO3 の高圧合成と物性測定を行った。その結果、全組成において既知のスピン電荷秩序相が基底状態となる一方で、0.9< x < 1 の高温領域において新たな秩序相を見いだした。粉末中性子回折実験とメスバウア分光測定の詳細な解析により、この新たな相がG-type 反強磁性相であることに加えて、この相において3Fe^3.67+^ → 2Fe^3+^ + Fe^5+^で表される電荷揺らぎが発達している可能性を見出した。また、この電荷揺らぎの起源を説明すべく、2倍周期のG-type反強磁性秩序と3倍周期の電荷秩序の競合に起因したリガンドホール配置のフラストレーションという新たな概念を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度だけで関連論文2本が国際誌に掲載されており、平行して進めている第一原理計算を活用した異常高原子価鉄酸化物の高圧合成に関する成果も論文としてまとめられる段階にあるため。
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今後の研究の推進方策 |
i) 異常原子価ペロブスカイト型3d遷移金属酸化物の開拓 今年度はキュービックアンビル型高圧発生装置に6-6の二段式アンビルを導入し、最高到達圧力を10GPa以上に引き上げることで、異常高原子価酸化物の探索領域を拡大し、引き続きCu3+、Fe4+、Co4+などの異常高原子価遷移金属イオンを内包するペロブスカイト酸化物の高圧合成を進める。昨年度までに、Ca2Fe2O5、Ba2Fe2O5、O2を頂点にもつ3次元Convex hull計算を各圧力で行い、高圧合成とオゾン酸化を組み合わせることでAサイト秩序を有する新奇酸素欠損ペロブスカイトCaBa2Fe3O9-dとCaBaFe2O6-dの合成に成功した。今後はこれらの多結晶・単結晶試料に対して詳細な磁化測定や磁気輸送測定を行い、トポロジカルらせん磁性などの新奇磁性相の探索を目指す。また、新奇らせん磁性およびスピン電荷秩序状態の探索を進めるべく、BaFeO3に対するLa置換を系統的に行い、詳細な磁気相図の作成を進める。
ii) 4d/5d遷移金属を内包する新奇ペロブスカイト関連高圧相の開拓 一般に4d/5d電子を内包する重い元素からなる化合物は、電子相関が弱いことを反映して非磁性になる傾向が強いが、イリジウム酸化物のように強いスピン軌道相互作用によって実効的に強相関系となり、局在スピンが生じることがある。本年度はIr4+系酸化物と似た電子構造もつことが期待されるPt5+系酸化物の高圧合成を進める。Na-Pt-O系に対して、ペロブスカイト構造やポストペロブスカイト構造など様々な構造を仮定した高圧下エンタルピー計算を行い、その結果に基づいた高圧合成を進める。
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