研究課題/領域番号 |
22H00361
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
浅野 泰久 富山県立大学, 工学部, 名誉教授 (00222589)
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研究分担者 |
山口 拓也 富山県立大学, 工学部, 助教 (00748527)
榊原 一紀 富山県立大学, 工学部, 准教授 (30388110)
中村 正樹 富山県立大学, 工学部, 准教授 (40345658)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酵素 / デジタル技術 / 人工知能 / 医薬品合成 / 可溶性変異 |
研究実績の概要 |
(1)可溶性発現 細菌由来2-オキソグルタル酸依存型L-ピペコリン酸水酸化酵素(XdPH)は、L-ピペコリン酸からシス-5-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成する酵素であるが、大腸菌を宿主として、不溶性にしか発現できなかった。そこで一次構造を基に「α-ヘリックス則」および「INTMSAlign-HiSol法」を用いてホットスポットを予測し、部位特異的変異を導入して可溶性発現の改善を行った。野生型と比較して単位培養当たり発現量が10数倍にも向上した変異体を得た。それらの変異を組合せた変異体を作製し、可溶性発現の評価を行った。 (2)耐熱性の付与 構造がわかっている酵素についてコンセンサス型タンパク質として改変すれば、耐熱性が向上するケースがあることが知られている。そこでグルタミン酸酸化酵素に適用した。 (3)結晶性の向上 我々が発見したBacillus 由来のアルドキシム脱水酵素(OxdB)は、の結晶化は困難であった。そこで、酵素表面にある極性残基(Lys, Glu, Glnなど)に着目し、「表面エントロピーを低減させる変異」などにより、変異点を探索し、結晶化に成功した。 (4)アルドキシム脱水酵素(Oxd)のKemp脱離反応の光学活性体合成への利用 4,5-ジヒドロイソキサゾールのNO結合をエナンチオ選択的に開環させ、光学活性なβ-ヒドロキシニトリルの合成を達成した。また、光学活性4-クロロ-3-ヒドロキシブタンニトリルについては、Bacillus (OxdB), Rhodococcus (OxdRE), Pseudomonas (OxdA)など由来のOxd群のスクリーニングが完了し、OxdAをタンパク質工学を用いて最適化して合成に用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)可溶性発現 細菌由来2-オキソグルタル酸依存型L-ピペコリン酸水酸化酵素(XdPH)は、大腸菌を宿主として不溶性にしか発現できなかった。そこで「α-ヘリックス則」および「INTMSAlign-HiSol法」を用いてホットスポットを予測し、部位特異的変異による可溶性発現の改善を行った。この新しい概念のもと、多数の変異型酵素をスクリーニングすることなく、野生型と比較して単位培養当たり発現量が10数倍にも向上した変異体を得た。 (2)耐熱性の付与 Streptomyces sp. NT1由来LGOXの耐熱性を向上させることを目的として、ソフトウェアを使用し7つの残基を重要残基として想定し、さらにフルコンセンサスLGOX(FcLGOX)を設計した。FcLGOXのアミノ酸配列は690個のアミノ酸のうち、104点の変異を有しており、数点のランダム変異では得られない変異型酵素である。FcLGOXのTmは約72℃であり、LGOXNT1のTm65℃を上回った。 (3)結晶性の向上 Bacillus 由来のアルドキシム脱水酵素(OxdB)に、有効な変異を起こすには結晶構造解析が必要であったが困難であった。そこで、表面エントロピーを低減させる変異により、結晶化および構造解析に成功した。合理的設計により結晶化が可能になった。 (4)Bacillus 由来Oxdが触媒するKemp脱離反応は新規な酵素的光学分割法である。本反応を用いて4,5-ジヒドロイソキサゾールのNO結合をエナンチオ選択的に開環させ、光学活性なβ-ヒドロキシニトリルの合成を達成した。また、Pseudomonas cholororaphis(OxdA)を用いて、安価なアルケンから2-イソキサゾールを経由して光学活性なβ-ヒドロキシニトリルを合成した。 このように、本研究の課題を着実に達成している。
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今後の研究の推進方策 |
課題1:酵素探索および最適化へのデジタル技術の導入 (1) 医薬中間体であるフッ素含有光学活性アルコールの酵素的合成について、1,1,1-トリフルオロアセトン から、(S)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールなどを高収率、高立体選択的に合成できるOgataeaやPichia由来のカルボニル還元酵素などを得ており、同様の手法で、それらの可溶性発現および耐熱性向上の変異を行う。(2) 機械学習や形式概念分析には、同一条件で評価した実験データが必要になる。大腸菌の全てのタンパク質を発現させた際の凝集の度合い(可溶性率)と合成量の実験結果を網羅したデータベース(eSOL)を基に機械学習機(人工知能)の構築を行う。 課題2:医薬品中間体などの有用物質製造プロセスへの実装 スーパー酵素ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)の医薬品合成への利用 in silicoデザインすることで高機能化したヤスデ由来HNLを用いて、芳香族アルデヒド類から、光学活性芳香族シアノヒドリン、続く加水分解により誘導される光学活性芳香族マンデル酸の合成検討を行い、高収率、高不斉収率で目的化合物を得る。更に、これらを原料にした医薬品原薬の合成プロセスの開発を行う。また、アルドキシム脱水酵素を用いて光学活性なβ-ヒドロキシニトリルを合成し、糖尿病薬をターゲットとする合成法を探索する。
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