研究課題/領域番号 |
22H00404
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩崎 博史 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60232659)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 相同組換え / DNA二重鎖切断 / RecA ファミリーリコンビナーゼ / 担子菌酵母 / BRCA2 / MRN複合体 / CTiP/Ctp1 / 遺伝性乳がん卵巣がん症候群HBOC |
研究実績の概要 |
相同組換えはDNA損傷を正確に修復する生命機能として働き、そのゲノム安定性維持機能を通して発がん抑止に重要な役割を果たす。本研究では、主に4つのテーマを立ち上げ、令和4年度には下の結果を得た。 1)真核生物のRecA ファミリー組換え酵素(リコンビナーゼ)によるDNA鎖交換反応:真核生物のRecA ファミリー組換え酵素は、体細胞分裂と減数分裂両方に働くRad51と減数分裂特異的なDmc1が知られている。当該年度は、DNA鎖交換反応の素過程である「相同性認識機構」について焦点を当てて、FRETを含むリアルタイム解析法等を用いて詳細な解析を行った。その結果、Rad51リコンビナーゼとの作用機序の違いや、補助因子Swi5-Sfr1の役割など、いくつかの重要な特徴を明らかにした。 2)担子菌酵母Naganishia liquefaciensを利用した、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子産物BRCA2によるRad51相同組換え反応の制御機構:S. cerevisiaeやS. pombeなど子嚢菌酵母はBRCA2ホモログを持たないが、担子菌酵母はそれを有することを見出し、この酵母を用いた実験系の立ち上げに注力した。 3)相同組換え初期に決定的な役割を持つMRNエンドヌクレアーゼの活性化機構の解明:Ctp1のC末端由来の合成CT15ペプチドが、Mre11-Rad50(MR)複合体のエンドヌクレアーゼを活性化することを見出している。令和4年度は、CT15とMR複合体とのクロスリンキングの条件を検討した。 4)分裂酵母の接合型変換の制御機構:接合型変換は相同組換えによる細胞機能調節のモデル系となる、大変興味深い反応である。我々はユークロマチン因子が接合型変換時のドナー選択に関与することを見出し、令和4年度にはこれをまとめて論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的な研究進捗状況は次の通りである。1)についてはほぼ実験は修了し、現在、論文として取りまとめているところである。2)は、形質転換法やゲノム編集法など、遺伝学・分子生物学の基本的な手法はすでに確立し、BRCA2ホモログ遺伝子(BRH2)の破壊株やRAD51の破壊株、及び、二重変異株など、遺伝学的相互作用株を作成しその性質の初期解析を終えている。また、タンパク質の精製法も確立した。今後は具体的な解析段階に入ることができる。3)は、担当していたポスドクが転出したので、新しく修士の学生が担当したが、活性をもつMR複合体の精製に難航しており、CT15とのクロスリンキング実験を再現性良く実施できていないので、その条件検討に注力しているところである。4)については、時間がかかったが、論文とし発表できたので、まずはこれを区切りとした。以上の進捗状況は、一部遅延がみられるものの、研究実施前からの想定内の進捗であることから、概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3つの実施項目を計画している。 項目1真核生物のRecA ファミリー・リコンビナーゼによるDNA鎖交換反応: クライオ電子顕微鏡によってRad51プレシナプティックフィラメントとSwi5-Sfr1複合体の高次構造を決定する。また、2種類の反応中間体C1及びC2複合体(いずれも3本鎖DNA中間体)の立体構造をクライオ電子顕微鏡によって解析する。これらは前年度からの継続となる。今年度は、さらにSwi5-Sfr1とHop2-Mnd1によるDmc1リコンビナーゼの活性化機構を解析する。 項目2 担子菌酵母を利用したBRCA2の機能解析とのRAD51によるDNA鎖交換反応の制御機構:担子菌酵母 Naganishia liquefaciens のBRH2(BRCA2ホモログ)と遺伝学相互作用因子を多数分離する。またNaganishia菌酵母由来のタンパク質を精製し、Rad51、RPA、Brh2から構成されるDNA鎖交換反応をin vitroで解析する。また、Naganishia におけるRad51 パラログ遺伝子を単離して、その遺伝学的、及び、生化学的解析を行う。 項目3Ctp1のCT15によるMRNエンドヌクレアーゼの活性化機構の解明: 前年度からの未完部分を完成させ、以下の実験を行う。CT15ペプチドにパラベンゾイルフェニルアラニン(pBPA)を導入し、標的部位とクロスリンクさせ、結合部位を質量分析機(MS)にて解析する。また、ジアジリン化DNAを用いてMRN複合体とDNAをクロスリンクさせ、MSにてDNA結合部位を同定する。さらに、クライオ電子顕微鏡でMRN-Ctp1複合体とDNA複合体の高次構造を決定する。また、ヒトRAD50タンパク質にはアデ二レートキナーゼ活性が報告されているので、分裂酵母Rad50でも同様な活性があるか解析する。
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