研究課題/領域番号 |
22H00406
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (30178628)
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研究分担者 |
千見寺 浄慈 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10420366)
寺田 智樹 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20420367)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ゲノム立体構造 / 相分離 / クロマチンドメイン |
研究実績の概要 |
細胞内のゲノムは高度に凝集して収納されているが、その一方で、DNA情報の効率的な読み書きを可能にしている。高度な凝集と効率的な情報処理は如何に両立しているのだろうか?その原理を理解することは重要な課題であるが、ゲノムはクロマチン鎖のループ、クロマチンドメイン、A/Bコンパートメント、染色体テリトリーなど、多階層の空間スケールに渡って組織されており、柔らかく大きく揺らいでいて、その解明には新しい方法と概念が必要とされている。本研究では、クロマチン局所物性に基づいてゲノム全体をシミュレートする多階層ゲノム動力学モデルを開発し、クロマチン運動を測定する実験グループとの協力によりゲノム動態の原理を明らかにする。ゲノム動態が転写制御に与える影響、およびDNA複製タイミングを決める機構を分析して、ゲノムがダイナミック に揺らいで細胞を制御する仕組みを明らかにする。 そのため本研究では、次の4つの研究課題を実行する。課題1(クロマチン相分離の原理)、課題2(異常細胞からゲノム構築原理を探る)、課題3(ゲノム動態と転写制御)、課題4(ゲノム動態と複製タイミング制御)。本年度はこのうち課題1を中心に研究を行い、課題3へ研究を拡げた。 とりわけ、1 kb解像度でクロマチンドメイン形成を記述するクロマチン計算モデルを開発し、クロマチンドメインの生成機構とドメインの転写機能の関係について解析を行った。実験データを説明するコヒーシン運動の模型を複数制作して系統的に比較し、ドメイン機能がクロマチン相分離に決定的な影響を与える機構を提案した。クロマチン局所物性とゲノム全体をつなぐ、多階層ゲノム動力学モデルの基礎を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、課題1(クロマチン相分離の原理)として次の3つの項目を研究する予定であった(1)1 kb解像度でクロマチンを記述するクロマチン計算モデルを開発し、全ゲノム動力学モデルに接続して多階層ゲノム動力学モデルを構築する。(2)相分離の平均場理論を開発し、数値計算結果と比較して、クロマチン相分離の物理とその制御機構を分析する。(3)測定データ解析法をさらに整備して、ゲノム運動を駆動するクロマチン相分離の論理を明らかにする。 本年度は、上記(1)(2)(3)いずれについても着実な前進があり、クロマチン相分離の原理について多くの知識を得て学会、研究会発表、論文発表を行った。また、多階層ゲノム動力学モデルの方法論を蓄積して、2023年度以降の研究の基礎をつくった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2022年度に開発したクロマチン計算モデルにより、クロマチンドメイン形成機構、ドメイン間相互作用機構をさらに深く解析する。当初の研究計画で予期しなかったこととして、コヒーシンの多様な運動形態とクロマチンドメイン物性の関係が2022年度の計算によって明らかにされたため、2023年度はこの問題を重視して解決に導く。また、2022年度の計算によって、クロマチン相分離の平均場理論とシミュレーションによる数値解析結果の関係が明らかにされたため、この関係をまとめて公表する。こうして整備した方法論によって、課題1(クロマチン相分離の原理)を出発点として、課題2(異常細胞からゲノム構築原理を探る)課題3(ゲノム動態と転写制御)課題4(ゲノム動態と複製タイミング制御)へ研究を展開する。
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