研究課題
ゲノムは細胞内で高度に凝集しているが、その一方でDNA情報の効率的な転写、複製、修復を可能にしている。ゲノムの高度な凝集と優れた情報処理は如何に両立しているのだろうか?その原理を理解することは重要な課題であるが、ゲノムはクロマチン鎖のループ、クロマチンドメイン、A/Bコンパートメント、染色体テリトリーなど、多階層の空間スケールに渡って組織されており、柔らかく大きく揺らいでいて、その解明には新しい方法と概念が必要とされている。本研究では、クロマチン局所物性に基づいてゲノム全体をシミュレートする多階層ゲノム動力学モデルを開発し、クロマチン運動を測定する実験グループとの協力によりゲノム動態の原理を明らかにする。ゲノム動態が転写制御に与える影響、およびDNA複製タイミングを決める機構を分析して、ゲノムがダイナミックに揺らいで細胞を制御する仕組みを明らかにする。そのため本研究では、次の4つの研究課題を実行する。課題1(クロマチン相分離の原理)、課題2(異常細胞からゲノム構築原理を探る)、課題3(ゲノム動態と転写制御)、課題4(ゲノム動態と複製タイミング制御)。本年度はこのうち課題1と課題3を中心に研究を行い、課題2,課題4への準備を行った。今年度は前年度までに開発したクロマチン計算モデルをさらに発展させ、転写活性の違いがドメイン物性の違いに反映される機構を解析した。コヒーシンの多様な運動がドメイン物性についての実験データを合理的に説明することを示し、ゲノム動態とDNA機能を結びつける新しい仮説を検討した。クロマチン局所物性とゲノム全体をつなぐ多階層ゲノム動力学モデルを整備し、プログラム公開の準備を進めた。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、課題1(クロマチン相分離の原理)と課題3(ゲノム動態と転写制御)についての研究を進展させた。この進展の途中において、コヒーシンの多様な運動が当初、予想していなかった機構によりドメイン物性を決める可能性が見出されたため、その機構を明らかにする課題に注力してデータ解析を行い、論文への公開の準備を行った。また、多階層ゲノム動力学モデルの方法論を改良して、プログラムコード公開の準備を行った。ドメイン物性とドメイン運動が、転写活性などのドメイン機能に大きく影響を与える様子を理論的に検討し、実験グループとの議論を通じて、ゲノム動態とDNA機能についての新しい描像を得つつある。
今後は、2023年度に見出されたコヒーシンの多様な運動によるクロマチンドメイン物性の決定機構を詳しく分析し、ドメイン物性とDNA機能の関係を深く分析する。そうして得られた知識を、これまでに開発したゲノム立体構造計算モデルと総合し、多階層ゲノム動力学モデルの方法論を整備して、ゲノム構築原理を探る研究を展開する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
生物物理
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Science Advances
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