研究課題/領域番号 |
22H00414
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
丹羽 隆介 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 教授 (60507945)
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研究分担者 |
加香 孝一郎 筑波大学, 生命環境系, 講師 (60311594)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 生殖幹細胞 / 神経内分泌 / ニッチシグナル / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
当該年度においては、生殖幹細胞(fGSC)ニッチに作用する神経ペプチドであるニューロペプチドF(NPF)について、有意な進捗を得た。ショウジョウバエでは、交尾によってメスの腸内分泌細胞からNPFが分泌され、これが卵巣に受容されるとfGSCの増殖が促される。本研究では、この交尾依存的なNPF分泌とfGSCの増殖に、餌に由来する糖の中でもフルクトース(果糖)が選択的に影響を与えることを解明した。グルコース(ブドウ糖)のみを含有する餌で飼育した場合でも、「ポリオール経路」と呼ばれる代謝経路でグルコースがフルクトースに変換され、これが、腸内分泌細胞に存在する味覚受容体で感知されてNPFの分泌を促しており、グルコース摂取量が不十分だと、fGSCの増殖および造卵は活性化されなかった。以上の結果は、体内で作られた糖を腸が「味わう」ことで栄養状態を感知すること、これが交尾による生殖の活性化に必須であることを、あらゆる動物を通じて初めて示すものである。一連の成果をScience Advances誌にて発表した。 当該年度においては並行して、ニッチに作用するリガンドとして注目するべき複数の因子についての機能解析を進めた。このうち、2つのリガンドに特に注目し、これらのリガンドおよびその受容体の機能低下個体においてfGSCの増殖に表現型が得られること、またこの表現型がfGSCにおけるニッチシグナルの強度に相関することを示した。 一方、注目するリガンドのショウジョウバエ体内での変動を捉えるにあたり、液体クロマトグラフィー-質量分析法による定量を試み、NPFについては体液からの検出可能性を認めたが、他の液性因子についての検証は十分進まなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸由来NPFと生殖幹細胞の関係については、栄養や交尾刺激との関連性も含め、基礎科学的に大きな意義のあるメッセージを論文として発信することができ、期待以上の顕著な進捗をなすことができた。また、他の液性因子についても、ほぼ順調に機能解析を進行させることができた。その一方で、ショウジョウバエ体液中における注目する液性因子の挙動の解析は当初想定以上に困難な状況と言える。すなわち、期待以上の進捗と難しい局面とがあるが、総合的にはおおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降は、有力なリガンドに特に注目をして以下の研究を実施する。 (1)候補受容体とリガンドの変異個体でのニッチシグナリングの解析 (2)fGSCの自己複製と分化に関与するリガンドの分泌源の特定 (3)個体内外の環境によるリガンド分泌の動態の解析 (4)複数のリガンドの相互作用の解析 (5)注目するリガンドの体液中の変動の解析。なお、この(5)の解析にあたっては、分析サンプルサイズを増大させることや、質量分析以外にもELISA法に挑戦するなどの方策を図る。
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