研究課題
ペプチドホルモンDH44が交尾後fGSC増殖に必須の役割を果たすことを示した。すなわち、新規精液成分venerose依存的な交尾後fGSC増殖において、DH44が必須であることを見出した。また、DH44は脳内のDH44受容体発現神経細胞に受容され、この下流の神経経路がfGSC増殖を含む交尾後の生殖の活性化に必要であった。一連の研究成果は、韓国・光州科学技術院のグループとの共同研究であり、プレプリントを公開済みである(DOI:10.21203/rs.3.rs-3921901/v1)。また我々は、DH44はニッチ細胞に発現するDH44受容体を介してもfGSC増殖に関与する可能性を提示した。一方、ペプチドホルモンAstCの研究では、fGSCニッチ細胞で発現するAstC受容体AstC-R2が、fGSCニッチシグナリングを抑制し、羽化直後のfGSC数の抑制に寄与することを発見した。また、神経由来AstCがfGSCニッチに受容されることがfGSC数抑制に必要であることを示した。さらに、fGSCニッチ特異的AstC-R2ノックダウン個体では、成熟卵数が上昇する一方で、貯蓄脂肪量と飢餓耐性が低下した。これらの結果は、AstCがfGSC数抑制を介して卵産生を抑制し、生殖と生存のトレードオフに影響を与えることを示唆する。一方、ショウジョウバエ体液中でのホルモン変動を捉えるにあたり、米国・ブラウン大学のグループとの共同研究で、標的ビオチン化技法(BirA-ER法)を用いてビオチン化内在性ホルモンを検出する修正ELISA法を導入した。その結果、従来から注目してきたペプチドホルモンNPFの体液中の存在を捉えた。これを受けて、交尾の刺激や栄養の刺激に伴う体液量の検討を開始したが、有意な結果を得るには至らなかった。この他、ペプチドホルモンCCHa1に関する研究も継続し、栄養との関係性を追究した。
2: おおむね順調に進展している
fGSCの増殖に関与する新しい2つのペプチドホルモンについては、計画どおり、あるいは計画以上に研究が進んでいると自己評価している。特に、DH44については、新規精液成分に依存したfGSC増殖に必須の役割を果たすことが見出され、海外との共同研究と合わせて成果公表することができた。また、AstCに関しては、ニッチシグナルに作用してfGSC増殖を抑制的に作用する因子であり、新規性の高い発見をなすことができた。ただし、AstCの分泌源は正確には特定できなかった。一方で、ショウジョウバエ体液中における注目する液性因子の挙動の解析については、ビオチン化技術を利用する新規手法の導入に活路を見出して研究を進めているものの、まだ安定的成功には至っていない。以上を踏まえると、期待以上の進捗とやや遅れている部分の両方が存在しており、総合的に「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
2024年度以降も引き続き、DH44およびAstCを含めた有力なリガンドに注目をして以下の研究を実施する。(1)候補受容体とリガンドの変異個体でのニッチシグナリングの解析(2)fGSCの自己複製と分化に関与するリガンドの分泌源の特定(3)個体内外の環境によるリガンド分泌の動態の解析(4)複数のリガンドの相互作用の解析(5)注目するリガンドの体液中の変動の解析。特にビオチン化手法を援用した研究を継続する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)