生物は様々な環境に進出し多様化を遂げてきた。特に、未開拓の新規ニッチへの進出は、新たな資源の利用を可能にし、その後の適応放散を誘導しうる。しかし、新規ニッチが存在しても、新規ニッチに進出できる分類群とできない分類群が存在する。新規ニッチへの適応能力の違いを生む遺伝基盤は殆ど未解明である。我々は、日本産トゲウオをモデルに、淡水進出して多様化を遂げる際に鍵となる遺伝子を複数同定した。その結果、適応に関与する遺伝子は、その周囲にトランスポゾンなどの繰り返し配列があったり、組換え率の低いところに集積したりする特徴を持つことを見出してきた。そこで、特定の染色体構造・クロマチン構造が適応進化に重要な変異を引き起こしたり、維持に貢献したりするという仮説をたてた。本仮説を踏まえて、本課題では、申請者らが独自に確立してきた日本産トゲウオ(stickleback fish)のモデル系を利用して新規ニッチへの適応に関わる変異を網羅的に解析し、染色体構造・クロマチン構造と比較することで、どのような染色体構造やクロマチン構造が適応進化の基盤となる突然変異の創出や集団内での維持を促進するのか、近縁の系統間でのこれら構造の違いが新規ニッチへの適応能力の違いを規定するのかを解明する。トゲウオ飼育のための環境をセットアップし、また、ATAC-seqやCUT&Tagなどのクロマチン解析の条件検討を完了し、解析を本格的に開始する体制を整えた。
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