研究課題/領域番号 |
22H00452
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大野 博司 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50233226)
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研究分担者 |
中西 裕美子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (10614274)
加藤 完 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (20632946)
伊藤 崇 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 訪問研究員 (20823561)
宮内 栄治 群馬大学, 生体調節研究所, 准教授 (60634706)
下川 周子 国立感染症研究所, 寄生動物部, 主任研究官 (60708569)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / 喘息 / プロピオン酸 / GPR41 / 2型糖尿病 / トランス脂肪酸 / 腸管バリア / 多発性硬化症 |
研究実績の概要 |
ヒト出生コホート研究から、5才時に気管支背喘息を発症している群では、非発症群と比較して生後1ヶ月便中のプロピオン酸濃度が低かった。そこで、出産直後の母マウスにプロピオン酸含有水を与えた群と通常水を与えた群の子マウスに、ダニ抗原感作気道炎症を誘導したところ、プロピオン酸含有水群では気道炎症および好酸球の起動への浸潤が有意に抑制された。さらに、この抑制は、好酸球上に発現する、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸をリガンドとするG蛋白質共役受容体であるGPR41依存的であること、プロピオン酸により好酸球のToll様受容体が誘導されることを明らかにした。 2型糖尿病に関しては、健常者と比較して患者群で有意に増加している腸内細菌としてFusimonas intestiniを同定し、同菌が高脂肪食中の資質をトランス脂肪酸であるエライジン酸に変換すること、エライジン酸は大腸上皮細胞に作用してバリア機能を傷害し、それにより腸管内腔から細菌のリポポリ多糖などの炎症物質が血中に移行することで、脂肪組織の慢性炎症から肥満や耐糖能異常を惹起することを明らかにした。 多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症を増悪する菌は小腸粘膜付着性を有することで自己炎症性のTh17細胞を誘導する。そこで多発性硬化症患者便において、Th17を誘導することで自己免疫性神経炎症の発症に関与する候補菌を同定するために、多発性硬化症患者便からマウス小腸粘膜付着性を有する菌を複数単離した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト出生コホートから、生後早期の便中プロピオン酸の低下が、その後の気管支喘息の素因となる可能性を示し、さらに気管支炎症の発症に寄与する好酸球上に発現するGタンパク質共役受容体であるGPR41がプロピオン酸に反応してToll様受容体の発現増強が起こることが気道炎症に保護的に働く可能性を示唆した。 2型糖尿病に関しては、糖尿病発症増悪に寄与する候補菌Fusimonas intestiniが、食物摂取された脂肪酸からトランス脂肪酸であるエライジン酸を産生することで肥満や耐糖能異常の増悪に寄与するというメカニズムを明らかにした。 また、多発性硬化症に関しては、マウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎を用いて、小腸常在菌であるErysipelotrichaceae属菌が粘膜上皮付着作用により自己炎症性のTh17細胞を誘導することから、多発性硬化症患者便から小腸粘膜付着性を有しTh17を誘導する候補菌を得ており、現在それらの菌が実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導するか検討中である。 このように、概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
新生児コホートで収集した1週、1ヶ月、1歳時便の解析から、1週の便がその後のアトピー性皮膚炎の罹患と最もよく相関する可能性が示唆された。そこで、アトピー性皮膚炎を特徴づける細菌の種類・特徴を抽出する。 食物アレルギーモデルマウスでの解析から、従来言われていた粘膜固有層に加え、小腸上皮内にもマスト細胞が存在し、さらにアレルゲンのチャレンジに伴い、上皮内マスト細胞が増加することが明らかとなった。そこで、アレルゲン感作前、感作後、チャレンジ後のマウス小腸粘膜固有層および上皮層からそれぞれマスト細胞をFACSソーティングにより単離し、1細胞RNAseq解析に供することで、それぞれのマスト細胞に特徴的な遺伝子、ならびにアレルゲン感作、チャレンジ二より特異的に変動する遺伝子を同定する。 ヒトで耐糖能異常と正に相関する細菌としてDorea属菌を同定し、高脂肪餌飼育マウスにDorea属菌を投与すると耐糖能異常が増悪することがわかった。そこで、Dorea属菌に特異的に作用する可能性のあるエンドリシンをスクリーニングする。得られた複数のエンドリシン候補遺伝子について、それぞれ大腸菌発現系でエンドリシン蛋白質を精製し、Dorea属菌に対する抗菌作用を検証する。 小腸上皮に接着性を示す細菌はTh17細胞を誘導し多発性硬化症を悪化させる可能性がある。そこで、多発性硬化症患者便から、マウス小腸に付着する菌を複数単離し、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性能関髄炎マウスに投与することで、自己免疫性中神経炎症を増悪させる菌を同定する。
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