研究課題/領域番号 |
22H00454
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大島 正伸 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40324610)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 胃がん / マウスモデル / オルガノイド / Wntシグナル / 転移 |
研究実績の概要 |
日本人の胃がん罹患率は高く、転移胃がん患者の5年生存率は約6%と低い。したがって、転移性胃がんを標的とした新規治療法開発のために、胃がん転移機構の解明は重要な研究課題である。Wntシグナルは正常幹細胞維持に重要であり、遺伝子変異による、Wntシグナルの恒常的活性化は消化管上皮細胞のがん化を誘導する。しかし、ヒト胃がん細胞ではWntシグナル活性化を誘導する遺伝子変異が少なく、一定の胃がん患者由来のオルガノイドでは、外因性Wntリガンド刺激によるWntシグナル活性化に依存して増殖する可能性が報告された。以上の背景を基に、本研究ではマウスモデルおよびオルガノイドを用いた個体レベルの研究により、外因性リガンド依存的なWntシグナルによる胃がん悪性化進展機構を解明することを目的とする。そのため、Kras(K)、Tgfbr2(T)、Trp53(P)遺伝子変異、Wntリガンド発現(W)を組み合わせた新規胃がんマウスモデル、および胃粘膜由来オルガノイドを樹立し、それらを用いた解析により、粘膜下浸潤や転移など、胃がん悪性化機構を解析する。
これまでの研究により、胃粘膜上皮細胞で遺伝子変異を誘導したK、T、P遺伝子変異とWをさまざまな組み合わせで導入したマウスを作製し、胃粘膜病変を解析した。その結果、Wntリガンド依存的なWntシグナル活性化が、腫瘍細胞の未分化性亢進に重要であり、KTP3重変異とWntリガンド依存的なWnt活性化の組み合わせにより、原発巣での浸潤がんが発生する結果が得られた。また、KTP、WKTPそれぞれのマウス胃粘膜からオルガノイドを樹立した結果、オルガノイドの増殖率にWntリガンド発現は関与していないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Kras G12D変異(K)、Tgfbr2欠損(T)、Trp53 R270H変異(P)の3種類のドライバー遺伝子変異をさまざまな組み合わせで導入したマウスを作製した。これらのマウスと、胃粘膜上皮細胞で転写活性を示すK19遺伝子プロモーター制御下にWnt1リガンド発現するK19-Wnt1マウスと交配し、得られた各遺伝子型マウスの胃粘膜の詳細な組織病理解析、および各種マーカーに対する免疫組織解析により以下の結果を得た。
K単独マウスでは、粘液細胞化生と壁細胞消失などの分化以上が見られたが、腺管構造は維持され腫瘍性変化は見られなかった。KT、KPの2重変異マウスでは、粘膜や粘膜下組織の肥厚が見られたが、上皮細胞の変化はK単独変異と同様だった。ヒト胃がんで高頻度に変異を認めるKTP3種類の遺伝子変異マウスでは、粘膜の粘液細胞化生と壁細胞消失に加えて、軽度の異形成が見られたが、腫瘍性変化は見られなかった。一方で、Wntリガンド依存的にWntを活性化したWKT、WKPマウスでは、未分化な細胞の増殖や腺管構造の異形が見られ、Wntシグナル活性化が腫瘍細胞の未分化性を更新したと考えられた。さらに、WKTPマウスでは、胃粘膜で異形を伴う腫瘍細胞の増殖が認められ、一部粘膜下浸潤をともなう腫瘍形成が認められた。以上の結果から、KTP遺伝子の3重変異に加えてWntリガンド依存的なWntシグナル活性化が、原発巣での胃がん発生に重要であると考えられた。さらに、KTPおよびWKTPマウス胃粘膜からオルガノイドを樹立し、継代培養した結果、培地中にWntリガンドおよびR-Spondin存在下では、オルガノイドの形態や増殖性にWntリガンド産生の有無による違いは認められない事が明らかとなった。以上のように、研究計画に沿って研究を推進し、成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験から、Wntリガンド依存的なWntシグナルは、腫瘍細胞の未分化性亢進や維持に重要である可能性が考えられた。がんの転移巣形成初期の、がん細胞が遠隔臓器に到達した際には、単独のがん細胞として生存して増殖する必要があり、幹細胞性の形質が重要と考えられる。したがって、Wntリガンド発現が胃がん細胞の転移能の獲得に関与する可能性が考えられた。そこで、樹立したKTP、WKT、WKP、WKTPの各種オルガノイドを脾臓に移植し、2および4週間後に病理解剖を行い、肝転移巣の形成効率を病理学的に解析する。転移効率に違いが認められた場合、転移巣形成機構への影響を明らかにするため、脾臓移植後数日から経時的な解析を実施し、肝臓類洞内でのがん細胞の生存性や周囲の微小環境形成への影響について、免疫組織学的な解析により明らかにする。
転移巣形成に対してWntリガンド依存性が認められた場合、それを検証するために、KTPオルガノイド細胞でCRISPR/Cas9法によりApc遺伝子を欠損させ、Wntリガンド非依存的にWntシグナルを活性化させたオルガノイド(A-KTP)を作製し、脾臓移植による肝転移巣形成実験を実施する。以上の実験により、Wntリガンド依存的なWntシグナル活性化が、胃がん細胞の転移巣形成に及ぼす影響を明らかにする。
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