研究課題
加齢は神経変性疾患の最大のリスクファクターである。一方、神経変性疾患は脳老化の原因の多くを占めると考えられる。しかし、数限りない傍証の蓄積にも関わらず、脳老化と神経変性の本質的関係は分子レベルで直接説明できていない。脳老化と神経変性の相互関係理解には、増殖細胞からなる臓器とは異なるコンセプトの創出が必須である。本研究では、老化に伴う神経細胞と変性疾患の細胞細胞の分子的共通性をシングルセルレベルの遺伝子発現情報から理解し、加速度的な神経変性進行の分子基盤がDAMP/SASPによる細胞死拡散であることを証明し、これらを基盤に、細胞内外シグナル変化を可変パラメータとして用いて、AIを駆使したシミュレーションから、理論値・実測値マッチングの最大化を達成し、脳老化と神経変性の連続性と非連続性を理解し、予防医療の開発につなげる。この目的のため本研究では、老化と神経変性の関係について、ニューロン、グリア細胞の時間軸に沿ったシングルセルレベルの分子網羅情報に、細胞間コミュニケーション情報を統合して、統合的動的分子ネットワーク解析を行う。これにより、分子ネットワーク時間軸ダイナミズムを記述し、そこから抽出した老化・変性のコアネットワークを相互比較することで、老化・変性の関係性を直接的に理解しようとするものである。さらに、得られた正常老化シミュレーションモデル、変性(AD, FTLD)シミュレーションモデルを元に、AIに深層学習を行わせて、脳老化・脳変性のdigital twinを創出する。本年度は、正常老化マウスならびに変性疾患モデルマウスからサンプリングを行った。特に、小脳失調モデルマウスからのサンプルのシングルセルRNA-seqが進んでいる。これらのサンプルから得た遺伝子発現情報を元に、次年度のシングルセル発現解析を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
正常老化、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭葉変性症(FTLD)あるいは脊髄小脳失調症(SCA1)のモデルマウス、およびそれぞれのバックグランドであるB6/SJL, APP-KI, PGRN-KIマウス, ATxn1-KIマウスのマウス大脳皮質および小脳皮質のサンプリングを行った。このうち、小脳サンプルからシングルセル解析を行い、遺伝子発現情報を取得した。また、デジタルツインとなるシミュレーションモデル開発の第1段階として、遺伝子発現情報を時間軸に沿って解析するために、Induction Method-based Analysis for Dynamic molecular networks (iMAD)を開発した。iMADは分子ネットワークの時間軸に伴う変化を、分子同士の因果関係で示すものである。この方法論を、小脳変性のダイナミックネットワーク変化を対象に実践した研究の論文を作成して本年度末に投稿した。
本年度に取得した、正常老化、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭葉変性症(FTLD)あるいは脊髄小脳失調症(SCA1)のモデルマウス、およびそれぞれのバックグランドであるB6/SJL, APP-KI, PGRN-KIマウス, ATxn1-KIマウスのマウス大脳皮質および小脳皮質のサンプルを元に、引き続き、scRNA-seqなどのシングルセル網羅的発現情報解析を進める。また、iMADの方法論について、研究論文を公表する。
1.2023/1/7世界脳週間イベントにて招待講演「認知症を科学する」2.2022/6/24東京医科歯科大学難治疾患研究所市民公開講座にて招待講演「認知症と脳の炎症」
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 2件) 備考 (5件)
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