双極性障害で検出されたモザイク変異の特徴を調べた結果、自閉スペクトラム症(ASD)の原因遺伝子の機能障害モザイク変異が多いことがわかった。特に、ヘテロ欠損がASDと関連することが示唆されているKMT2Cの機能喪失変異が検出されたことは注目され、この変異は、生殖系列変異ではASDを、モザイク変異では双極性障害をもたらす可能性が考えられた。 KMT2Cは、ヒストンH3のリジン4(H3K4)のメチル化酵素をコードしているが、ASDを引き起こすメカニズムは明らかにされていなかった。そこで、KMT2C のヘテロ欠損を持つマウスを作製し、行動解析を行った。その結果、Kmt2c 変異マウスは、スリーチャンバー試験において社会行動の異常を示した。インテリケージを用いて、行動の柔軟性を評価したところ、環境の変化に対して柔軟に対応できず、こだわる傾向が見られた。この行動変化の分子メカニズム解明を目指し、トランスクリプトーム解析を行ったところ、発現が変動していた遺伝子には、既知のASD関連遺伝子がエンリッチしていた。シングルセルRNAシーケンス法により解析したところ、放射状グリアや未成熟神経細胞にASD関連の発現変動遺伝子がエンリッチしていたことから、ASDの病態には神経系分化の初期段階におけるKmt2c欠損が関与していると考えられた。一方、Kmt2c変異マウスのASD様行動は、ヒストン脱メチル化酵素 LSD1 阻害薬Vafidemstatにより改善し、Kmt2c変異マウスにみられる発現変動遺伝子の多くが薬剤投与により反対方向の発現変動を示したことから、成長後のヒストンメチル化の改善でも、行動に影響しうることがわかった。 また、双極性障害患者で見られたmtDNAのm.3243A>G変異の意義について更に検討するため、この変異を有する患者に同意を得て、血液からのiPS細胞作成を開始した。
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