研究課題/領域番号 |
22H00473
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
黒尾 誠 自治医科大学, 医学部, 教授 (10716864)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | FGF23 / 骨粗鬆症 / 尿細管障害 / リン |
研究実績の概要 |
加齢とともに腎臓の機能単位であるネフロンの数が減少する。これは老化現象であり、原因は不明とされてきたが、申請者は腎老化を加速する因子として「リン」を同定した。食事で摂取したリンが消化管から吸収されて血中へ流入すると、それを感知した骨細胞がリン利尿ホルモンFGF23を分泌し、尿中リン排泄量を増やすことでリン恒常性を維持する。しかしFGF23が一定の値を超えると尿細管障害が発生し、ネフロン数が減少する。我々は、食事由来の「外因性のリン」だけでなく、骨量が減って骨から溶出する「内因性のリン」もFGF23の分泌を促すと考え、「骨量減少が腎老化を加速する」という仮説を立てた。骨量が減少する代表的疾患である骨粗鬆症が腎老化を加速するか、逆に骨粗鬆症を治療すれば腎老化が減速するか検証するのが本研究の目的である。すなわち、① 国際宇宙ステーションの無重力環境で骨粗鬆症を発症したマウスや宇宙飛行士にFGF23上昇と腎老化を認めるか、② 骨粗鬆症マウスや患者を治療して骨量を増やすとFGF23が低下して腎老化が減速するか、の2点を検証する。4年間の研究期間の初年度が終了した時点での研究実績の概要は、以下のとおりである。 野生型マウスを国際宇宙ステーションの無重力環境で10日間飼育後、血液と臓器を凍結した状態で地上に帰還させた。血漿サンプルでFGF23や骨代謝マーカーを、腎臓サンプルからRNAを抽出し、定量的RT-PCRで腎障害マーカーを定量評価したところ、仮説を支持するデータが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【目標1】宇宙の無重力環境で骨量が減少したマウスと宇宙飛行士では腎老化が加速することを証明する。 野生型マウスを国際宇宙ステーションの無重力環境で飼育後、血液と臓器を採取し、凍結した状態で地上に帰還させた。血漿サンプルでFGF23や骨代謝マーカーを、腎臓サンプルからRNAを抽出し、定量的RT-PCRで腎障害マーカーを定量評価したところ、仮説を支持するデータが得られた。さらに、腎臓、骨、肝臓、心臓、骨格筋から抽出したRNAを用いたトランスリプトーム解析の準備を進めている。また、宇宙飛行士6名分の飛行前、飛行中、飛行後の血液・尿検体の採取が完了した。 【目標2】骨粗鬆症マウスや患者を治療して骨量を増やすと腎老化が減速することを証明する。 卵巣摘出マウスは閉経後骨粗鬆症のモデルとして確立されている。野生型マウス(雌)の卵巣を摘出後、骨と腎臓と血液を採取した。骨粗鬆症患者を対象としたRANKL中和抗体による治療・非治療のクロスオーバー試験の準備を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
【目標1】宇宙の無重力環境で骨量が減少したマウスと宇宙飛行士では腎老化が加速することを証明する。 無重力環境下で飼育したマウスと対照マウス(地上で飼育したマウス)の腎臓、骨、肝臓、心臓、骨格筋から抽出したRNAを用いたトランスリプトーム解析を行い、仮説を支持する遺伝子発現変化が認められるか検証する。また、宇宙飛行士6名分の飛行前、飛行中、飛行後の血液・尿検体をNASAから受領し、マウスと同様の解析を開始する。 【目標2】骨粗鬆症マウスや患者を治療して骨量を増やすと腎老化が減速することを証明する。 卵巣摘出マウスと対照マウス(偽手術マウス)の骨、腎臓、血液の解析を進め、仮説を支持するデータが得られるか検証する。また、骨粗鬆症患者を対象としたRANKL中和抗体による治療・非治療のクロスオーバー試験の研究計画を作成し、倫理委員会の機関承認が得られ次第、患者のリクルートを開始する。
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