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2022 年度 実績報告書

腸内pathobiontを標的としたファージ療法開発のための基盤研究

研究課題

研究課題/領域番号 22H00477
研究機関大阪公立大学

研究代表者

植松 智  大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50379088)

研究分担者 井元 清哉  東京大学, 医科学研究所, 教授 (10345027)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワードバクテリオファージ / メタゲノム解析 / 次世代ファージ療法 / 改変ファージ
研究実績の概要

我々は、ヒト糞便からファージDNAを単離し、ショットガンシークエンス後にウイルスコンティグ作成、種分類まで行うメタゲノム解析パイプラインを東大医科研のスーパーコンピュータSHIROKANE上に構築した。日本人健常者101名の解析を行い、世界初の腸内細菌とファージのデータベースを公開した。ファージゲノムを宿主細菌の染色体にプロファージとして組み込む溶原性ファージに注目し、ロファージ領域を同定から宿主寄生体関係を明らかにする手法も開発した。最近、細菌膜を破壊するファージ由来の酵素を抗菌物質として応用する次世代ファージ療法が期待されている。エンドライシンは、細菌のペプチドグリカン層を破壊する酵素で、グラム陽性菌に対する抗菌剤として注目されている。偽膜性腸炎の原因菌のClostridiodes difficileの溶原ファージのゲノムを網羅的に解析し、新規の10種類のエンドライシンを見つけた。ゲノム配列を元にタンパク質合成し、C.difficileに対して特異的かつ強力に殺菌する抗菌酵素を同定できた。この様に、細菌ゲノムの解析からプロファージ配列を同定し、プロファージのゲノム配列情報から宿主細菌に対する溶菌酵素を抽出し、抗菌剤として用いるデジタル創薬基盤を確立した。本年度は、肥満や糖尿病のpathobiontであるClostridium ramosumのおよびクローン病の増悪に関わるpathobiontである腸管接着性侵入性大腸菌(Adherent Invasive Escherichia coli; AIEC)の標準株及び臨床分離株を入手し、ショットガンメタゲノム解析を実践した。細菌ゲノムの解析からプロファージ配列を同定し、プロファージのゲノム配列情報から溶菌酵素の同定を目指した。またAIECに関しては宿主結合に関わる因子の検索を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

肥満や2型糖尿病の病態には腸内共生細菌Clostridium ramosumが関連していることが報告されている(Nature. 2013; mBio. 2014)。C. ramosumに関しては、標準菌JCM1298Tに加えて、これまでに我々が収集した肥満者や脂肪肝患者の糞便ストックから単離培養を行って解析を進めた。菌株から細菌ゲノムを抽出して、ショットガンシークエンスを行った。得られたデータを元に細菌コンティグを作成して、配列内に組み込まれた溶原ファージゲノムの同定を進めた。IBD患者では、腸内細菌叢の構成異常(dysbiosis)が認められる。最近、AIECが多数のクローン病患者の腸内から検出され、、腸炎の悪化の重篤な要因となると考えられている。(Gut.2018)。そのため、腸内に多数のAIECを保有している場合は、重症化のリスクが高いため除菌が推奨される。しかし、AIECはアンピシリンやネオマイシンなどの複数の抗生剤に対する耐性を既に獲得しているのみならず、抗生剤の投与は有益菌も含めて他の腸内細菌の殺傷も誘導し、dysbiosisの悪化によりさらにクローン病の症状が増悪する可能性があるため、AIECだけを特異的に殺傷する治療法が強く望まれている。AIECは単離することが非常に難しい菌であるため、既に手に入れている標準菌LF82株とヒト腸内由来の4種類のAIEC単離株計5株を用いてショットガンメタゲノム解析を進めた。今後得られるAIEC特異的ファージのゲノム情報を用いて、改変ファージ作成を行うために、T7ファージを基本骨格としてAIECに対して特異的に感染できる改変ファージの作成を行う予備実験を行った。T7ファージにおいて、類縁のT3ファージのテールファイバーを組み替えた組み替えウイルスを作成することに成功した。

今後の研究の推進方策

ファージゲノム情報から得られる宿主特異的な溶菌酵素の同定およびその応用に関して、C. ramosumに対する宿主特異的な溶菌酵素では、菌株ゲノムのショットガンシークエンスを行い、得られたデータを元に独自の解析パイプラインを用いて溶原ファージゲノム配列を同定する。これらの詳細な遺伝子解析からエンドライシンを同定し、得られた配列を元に人工合成してタンパク精製を行う。AIECに対する宿主特異的な溶菌酵素の同定では、グラム陽性菌と異なり陰性菌は細胞外膜にlipopolysaccharide層を持つため、未だグラム陽性菌に対するエンドライシンの様に強力な溶菌活性を持ったファージ由来の酵素療法は開発されていない。菌株のショットガンシークエンスにより得られたAIECゲノム情報から、菌特異的に感染するファージのタンパク情報を種ごとに分類し、酵素を網羅した遺伝子カタログを目指す。改変ファージ技術を応用したファージ製剤の開発に関して、標的細菌に対する特異性を持たせたり、耐性化への対策として改変ファージ技術が注目されているが、改変ファージの作成に関して、ファージゲノムを組み立てるプラットフォームが必要であるため、現時点で全ての腸内細菌に対して応用することは難しい。本研究では新しいプラットフォームの作製は行わず、既に確立されている大腸菌のプラットフォーム改変ファージ技術を用いてAIECに対する新規改変ファージ製剤を開発し、動物モデルで有効性を示す改変ファージ製剤の取得をアウトプット目標とする。作成した腸内ウイルスゲノム解析法とメタゲノムデータベースを利用してAIECに特異的に感染する溶原ファージを同定し、そのゲノム情報を基盤としてAIECを特異的に殺傷する改変ファージの作成を行う。

  • 研究成果

    (20件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Bronchoalveolar lavage fluid reveals factors contributing to the efficacy of PD-1 blockade in lung cancer.2022

    • 著者名/発表者名
      Masuhiro K, Tamiya M, Fujimoto K, Koyama S, Naito Y, Osa A, Hirai T, Suzuki H, Okamoto N, Shiroyama T, Nishino K, Adachi Y, Nii T, Kinugasa-Katayama Y, Kajihara A, Morita T, Imoto S, Uematsu S, Irie T, Okuzaki D, Aoshi T, Takeda Y, Kumagai T, Hirashima T, Kumanogoh A.
    • 雑誌名

      JCI Insight

      巻: 7(9) ページ: e157915

    • DOI

      10.1172/jci.insight.157915.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Identification of bacteriophage genome sequences with representation learning.2022

    • 著者名/発表者名
      Bai Z, Zhang YZ, Miyano S, Yamaguchi R, Fujimoto K, Uematsu S, Imoto S.
    • 雑誌名

      Bioinformatics.

      巻: 38(18) ページ: 4264-4270

    • DOI

      10.1093/bioinformatics/btac509.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] The microsomal prostaglandin E synthase-1/PGE2 axis induces recovery from ischemia via recruitment of regulatory T cells.2022

    • 著者名/発表者名
      Amano H, Eshima K, Ito Y, Nakamura M, Kitasato H, Ogawa F, Hosono K, Iwabuchi K, Uematsu S, Akira S, Narumiya S, Majima M.
    • 雑誌名

      Cardiovasc Res.

      巻: cvac137 ページ: 1-16

    • DOI

      10.1093/cvr/cvac137.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] The Role of mPGES-1 in Promoting Granulation Tissue Angiogenesis Through Regulatory T-cell Accumulation.2022

    • 著者名/発表者名
      Hyodo T, Ito Y, Hosono K, Uematsu S, Akira S, Majima M, Takeda A, Amano H.
    • 雑誌名

      In Vivo.

      巻: 36(5) ページ: 2061-2073.

    • DOI

      10.21873/invivo.12932.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Characterization of the human gut virome in metabolic and autoimmune diseases.2022

    • 著者名/発表者名
      Fujimoto K, Miyaoka D, Uematsu S.
    • 雑誌名

      Inflamm Regen.

      巻: 42(1) ページ: 32

    • DOI

      10.1186/s41232-022-00218-6.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Phage therapy for Clostridioides difficile infection.2022

    • 著者名/発表者名
      Fujimoto K, Uematsu S.
    • 雑誌名

      Front Immunol.

      巻: 13 ページ: 1057892.

    • DOI

      10.3389/fimmu.2022.1057892. eCollection 2022.

  • [雑誌論文] 腸内細菌の異常と制御法2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 雑誌名

      日本ペインクリニック学会誌

      巻: 29(4) ページ: 64-64

  • [雑誌論文] Dysbiosis関連疾患の新規治療法の開発2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 雑誌名

      腸内細菌学雑誌

      巻: 36(2) ページ: 66-67

  • [雑誌論文] 腸内細菌・ウイルス叢のビッグデータを用いた新しい治療法の開発.2022

    • 著者名/発表者名
      藤本 康介, 植松 智
    • 雑誌名

      感染 炎症 免疫.

      巻: Vol.52 No.2. ページ: 115-116

  • [雑誌論文] 生活習慣病と病原常在腸内細菌2022

    • 著者名/発表者名
      藤本 康介, 植松 智
    • 雑誌名

      臨床免疫・アレルギー科

      巻: 77(6) ページ: 684-689

  • [雑誌論文] 腸内細菌叢を標的とした新規治療法の開発2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 雑誌名

      日本マス・スクリーニング学会誌

      巻: 32(2) ページ: 166-168

  • [雑誌論文] 【自己免疫疾患 層別化する新時代へ 臨床検体のマルチオミクス解析、腸内細菌によって見えてきた免疫経路の全容】(第1章)精密医療を目指したマルチオミクス解析によるアプローチ メタゲノム解析からの層別化医療への展望2022

    • 著者名/発表者名
      藤本 康介, 植松 智, 井元 清哉
    • 雑誌名

      実験医学

      巻: 40(18) ページ: 2374-2379

  • [雑誌論文] いま知りたい!!ファージ療法は多剤耐性菌への切り札となるか 1 概論-ファージ療法の利点と課題.2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智,井元 清哉
    • 雑誌名

      実験医学

      巻: 40(18) ページ: 2983-2985

  • [学会発表] 腸内ウイルス叢のメタゲノム解析と治療応用2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 学会等名
      第38回JBICバイオ関連基盤技術研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Dysbiosis関連疾患の新規治療法の開発.2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 学会等名
      第13回OEB機能性食品分科会
    • 招待講演
  • [学会発表] Dysbiosis関連疾患の新規治療法の開発2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 学会等名
      第26回腸内細菌学会学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 腸内細菌叢を標的とした新規治療法の開発.2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 学会等名
      第49回日本マススクリーニング学会学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] Host-pathogen interaction between bacteria and phage in intestine.2022

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Uematsu.
    • 学会等名
      The 20th Awaji International Forum on Infection and Immunity
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 腸内microbiome(MB)のデジタルツイン技術の構築と新規治療法の開発.2022

    • 著者名/発表者名
      植松 智
    • 学会等名
      エレクトロニクス実装学会 ヘルスエレクトロニクス研究会.
    • 招待講演
  • [図書] 実験医学別冊 もっとよくわかる!腸内細菌叢2022

    • 著者名/発表者名
      藤本 康介, 植松 智
    • 総ページ数
      5
    • 出版者
      羊土社
    • ISBN
      978-4-7581-2211-5

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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