研究課題
昨年度に引き続き、ヒト糞便サンプルから単離したClostridium ramosumのショットガンシークエンスデータの解析を行った。得られたメタゲノムデータからコンティグを作成し、プロファージ配列を検索したところ、計70個のプロファージ配列を同定した。プロファージ配列の大部分は、Caudoviralesに分類されるMyoviridaeやSiphoviridaeであった。次に得られたプロファージ配列からファージ由来の溶菌酵素の配列を検索した。計34個(3種類)の溶菌酵素配列を同定することができた。それぞれの配列についてクローニングし、pCold-SUMOベクターに挿入後、大腸菌BL21を用いて溶菌酵素を発現させた。クロマトグラフィーによりタンパクを精製した後、C. ramosumに対する溶菌効果をin vitroで検討した。3種類の溶菌酵素のうち、1種類については酵素の発現がうまくいかず精製できなかったが、2種類についてはC. ramosumに対する溶菌活性を認めた。腸管接着性侵入性大腸菌については、得られたメタゲノムデータから溶菌酵素配列を探索した。計4種類の新規溶菌酵素候補配列を同定し、現在その酵素の精製を進めている。また、標準菌株であるLF82のゲノム配列から4つのプロファージ配列を同定した。そのプロファージ配列のうち、1つがT7ファージと同じPodoviridaeであったため、テールファイバーの配列を入れ替えた改変ファージの作成を行った。改変ファージを作成後、電子顕微鏡で観察したところファージ粒子を確認することができた。
2: おおむね順調に進展している
肥満者や非アルコール性脂肪肝炎患者の糞便ストックからC. ramosumを単離培養し、新規の溶菌酵素(エンドライシン)配列を複数同定することができた。さらに、C. ramosumに対する溶菌活性を見出すことに成功した。腸管接着性侵入性大腸菌については、グラム陰性菌であるため、グラム陽性菌のエンドライシンとは異なり強力な溶菌活性を有するファージ由来の酵素はこれまで開発されていない。独自のメタゲノムデータから新規の溶菌酵素候補配列を同定しており、溶菌候補の新規開発につながる可能性がある。改変ファージについてはファージ粒子の作成まで成功した。しかし、溶菌活性を示していないため、今後の工夫が必要である。
C. ramosumに対する宿主特異的な溶菌酵素については、C. ramosumの特異性を評価するために、さまざまな腸内細菌を用いて活性を評価する。またin vivoでの溶菌活性を評価するために、C. ramosumを定着させたシングルノトバイオートマウスを用いて検証する。腸管接着性侵入性大腸菌の新規溶菌酵素を作成し、溶菌活性の評価を行う。腸管接着性侵入性大腸菌の改変ファージについては、さらに詳細なメタゲノム解析を行い、LF82以外の菌株から改変に用いるパーツの選定を行うとともに、それを用いた改変ファージの作成を行う。
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