研究課題/領域番号 |
22H00479
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大段 秀樹 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (10363061)
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研究分担者 |
大平 真裕 広島大学, 病院(医), 助教 (30397947)
田原 裕之 広島大学, 病院(医), 助教 (30423354)
井手 健太郎 広島大学, 病院(医), 講師 (50511565)
小林 剛 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (50528007)
山本 卓 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (90244102)
田中 友加 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (90432666)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 癌免疫回避 / 制御性B細胞 / ネオアンチゲン / 糖鎖抗原 / 腫瘍免疫 / 移植免疫 |
研究実績の概要 |
腫瘍微小環境では、抗腫瘍活性を持つeffector B細胞と、逆に腫瘍促進活性を示す制御性B (regulatory B: Breg)細胞が混在することが示唆され、B細胞の多様 な機能が注目されている。我々は、ミエロイド系の表現型を示すB-1細胞(CD11b+)が、PD-L1/2の発現と抗炎症サイトカインIL-10/TGF-βの産生を介して、癌関連糖鎖・蛋白抗原を標的とする腫瘍免疫応答を巧妙に抑制していることをマウスモデルで解明した。本研究では、 Breg細胞サブセットであるB-1細胞への極性化機構のうち、Toll様受容体(Toll-like receptor: TLR)を介したシグナル伝達機構の解明を目的としている。本年度は、マウスB-1細胞への分化と活性化には、B細胞受容体(BCR)からの刺激と共にHMGB1-TLR2/4シグナルシグナル伝達が関連し、Bruton's tyrosine kinase (BTK)阻害剤とhistone deacetylase (HDAC)阻害剤が強力にそれを抑制することを解明した。また、B-1細胞のBCR repertoire解析及により、多様性の低下とクローナリティーの亢進を検証し、idiotope-driven T-B cell collaboration機構の傍証を得た。概念実証研究としては、in vivo腫瘍移入マウスモデルを用い、B-1細胞の用量依存的な抗腫瘍免疫回避・促進機構を検証した。さらに、臨床固形腫瘍検体を用いたB細胞のフェノタイピングとBCR repertoire解析に基づくシグネチャーにより、B-1細胞によるIL-1βの産生およびIL-1βによるB-1細胞の遊走・動員の促進と肝細胞癌の再発との関連性が検証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗を以下に5つに細分して報告する。 1)B-1細胞の制御機能への極性化に関連するTLRシグナル機構: マウスB-1細胞への分化と活性化には、HMGB1-TLR2/4シグナル伝達が関連し、BTK/HDAC阻害剤が臨床的用量でそれを抑制することを解明した。 2) Idiotope-driven T-B cell collaboration機構によるB-1細胞の連鎖活性化機構: マウスのCD11b+ B-1細胞をさらにCD80表出の有無で単離しBCR repertoire解析を行ったところ、多様性の低下とクローナリティーの亢進を検証し、idiotope-driven T-B cell collaboration機構の傍証を得た。 3)In vitro ヒトB-1細胞活性化モデルによる抗腫瘍免疫回避機構の検証: ヒトHMGB1の遺伝子多型が、TLR結合およびサイトカイン誘導領域の構造に影響を及ぼす可能性を検証した。 4)In vivo ヒト化マウスモデルによるヒトB-1細胞を標的とした免疫治療のproof of concept: まず、マウスアロ腫瘍移入in vivoモデルを用い、B-1細胞の用量依存的な抗腫瘍免疫回避・促進機構を検証した。加えて、ヒト肝細胞キメラマウスに肝細胞癌株を経脾的門脈移入したモデルシステムを確立した。 5)固形腫瘍検体から分離したTIL-B細胞のフェノタイピングとBCR repertoire解析: HCC切除標本から抽出したB細胞のフェノタイピングとBCR repertoire解析に基づくシグネチャーにより、B-1細胞によるIL-1βの産生およびIL-1βによるB-1細胞の遊走・動員の促進と肝細胞癌の再発との関連性が検証された。
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今後の研究の推進方策 |
1)B-1細胞の制御機能への極性化に関連するTLRシグナル機構: BCRからの刺激に加えHMGB1-TLR2/4シグナルにより分化したマウスB-1細胞の免疫制御機構をin vitroで解明した。令和6年度は、TLR刺激により分化させたB-1細胞上のPD-L1/CD80シス結合の影響をin vitroモデルで解明する。 2)Idiotope-driven T-B cell collaboration機構によるB-1細胞の連鎖活性化機構: マウスにOVA発現癌細胞株を移入するin vivoモデルでは、B-1細胞の連鎖的な増殖が確認された。T細胞のTCR repertoire解析によりidiotopeに応答するT細胞とOVAに応答するT細胞のクローン拡大・縮小を観察する。 3)In vitro ヒトB-1細胞活性化モデルによる抗腫瘍免疫回避機構の検証: ヒトHMGB1の遺伝子多型が、TLR結合およびサイトカイン誘導領域の構造に影響を及ぼす可能性に基づき、制御性B-1細胞への分化とHMGB1の一塩基多型との関連を解明する。 4)In vivo ヒト化マウスモデルによるヒトB-1細胞を標的とした免疫治療のproof of concept: CMAH-/- SCIDマウスにヒトHCCを経脾的に門脈移入し、ヒトPBMCを移入したモデルシステムにおいて、BTK 阻害剤、HDAC阻害剤投与し、NeuGc応答性B-1細胞 の分化制御とGPC3応答性T細胞の活性化を観察する。 5)固形腫瘍検体から分離したTIL-B細胞のフェノタイピングとBCR repertoire解析: HCC切除標本からtumor infiltrating lymphocyteを抽出し、BCR repertoire解析及びシングルセルRNAシーケンスに基づくシグネチャーの再発率及び予後との関連性に関する解析を継続する。
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