研究課題/領域番号 |
22H00488
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 敏 九州大学, 歯学研究院, 教授 (30264253)
|
研究分担者 |
吉崎 恵悟 九州大学, 歯学研究院, 助教 (10507982)
山田 亜矢 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (40295085)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 歯の発生 / 歯原性上皮細胞 / エナメル芽細胞 / エナメル質 / 石灰化 |
研究実績の概要 |
生体内で最も硬いエナメル質の再生は、硬組織再生の中でも極めて難しい課題あり、一度喪失したエナメル質は再生は不可能であることから、人工物を用いた修 復が行われている。先天的なエナメル質形成不全や、齲蝕等による後天的なエナメル質破壊に対し、新たな治療法としてのエナメル質再生技術は、次世代歯科再 生療法として期待される。しかしながらエナメル質形成に関わるエナメル芽細胞分化に関しては未だ不明な部分も多く、特に成熟期エナメル芽細胞の機能に関し ては、ほとんど解明されていないのが現状である。そこで本研究では、歯の形成過程における歯原性上皮細胞の各種細胞(内外エナメル上皮、中間層細胞、星状網 細胞)への分化機構の解明、その中でも内エナメル上皮から分化するエナメル芽細胞の成熟過程における石灰化機構を明らかにし、これらの知見を用いた新たな 「エナメル質再生」ならびに「細胞に依存しない硬組織再生」技術の開発を目的としている。 これまで成熟期エナメル芽細胞に発現し、エナメル質の石灰化に関与していることが示唆されたGpr111およびGpr115の欠損マウスが、pH調節機構がうまく働かずに石灰化が十分に生じないことを見出した。そこで個々の分子における機能解析を行った結果、Gpr115はCar6の発現抑制を、Gpr111はKlk4の発現制御によるエナメル基質の分解に関与することが示唆されたが、これらは独立してpHに応答することがわかり、Gpr115はpH低下に依存してGpr111はpH6.8を閾値として作用していることが新たに判明した。Gpr111およびGpr115の2重欠損マウスにおいては、双方の表現系が相乗的ではなく相加的であり、pHにより応答性と同様に機能自体の重複はなく、独自にエナメル芽細胞の成熟期機能の維持に貢献していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、エナメル質の石灰化に関わるGpr111およびGpr115の機能解析において、これらの分子が連動して作用しているのか、独立して作用しているのか不明であった。今年度の研究においては、双方の2重欠損マウスの解析から、エナメル質形成の表現系が、単独の遺伝子欠損マウスと比較して相加的であり、独立して作用している可能性が示唆された。Gpr111およびGpr115が、細胞外のpHの変化に応じてその発現を変化させ、さらに下流分子のCar6およびKlk4の発現を制御しているが、これらGprがpHに関わる水素イオンの直接的な受容体(センサー)となっているのかに関しては、明らかにすることができなかった。一方で、歯発生段階におけるscRNAシークエンス解析から、Gpr以外にも成熟期エナメル芽細胞の機能維持に重要な分子のスクリーニングができたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
1)Gpr111およびGpr115のより詳細な機能解析のために、Gpr111欠損マウス、Gpr115欠損マウス、Gpr111およびGpr115の2重欠損マウスの歯胚サンプルを用いたRNAシークエンスおよびCAGE解析により、エナメル質形成過程におけるpH調整機構の詳細を明らかにする。さらにリコンビナントCar6およびKlk4タンパクを作成し、これらを用いることでin vitroでのエナメル質石灰化モデルにおけるエナメル質の基質含有量やハイドロキシアパタイト形成量の評価を行う。 2)新規エナメル質成熟過程に発現する分子の機能解析を行うため(組織内発現は確認済み)、これら分子を欠損させた歯原性上皮細胞株を作成し、エナメル芽細胞の分化評価を行う。エナメル芽細胞の分化に直接関与する分子について、遺伝子改変マウス等を作成し、エナメル質石灰化における役割についての詳細な解析を行う。
|