研究課題
本研究では、新たな創薬モダリティとして期待されているタンパク質、ウイルス、エクソソーム、Cas9タンパク質gRNA複合体(RNP)に対して、高分子ミセルのコア、シェル設計を行い、汎用的かつ革新的なナノキャリア設計理論を確立することを目指して研究開発を行なってきた。具体的に、コア設計に関しては、タンニン酸を利用した三元系高分子ミセルによって、抗体の細胞内デリバリー、オボアルブミン(OVA)発現がん細胞の皮下移植モデルマウスへのOVA内包ミセルの皮下投与による腫瘍免疫の活性化と抗腫瘍効果(がんワクチンへの展開)、RNPの固形がん選択的なデリバリーとin vivoゲノム編集効果を確認することができた。これらの研究では、コア構成ポリマーの最適化を進め、コア設計理論を確立することができた。アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)のデリバリーに関しては、三元系高分子ミセルによって、中和抗体存在下での遺伝子発現、肝臓等の正常組織での遺伝子発現の抑制とがんでの遺伝子発現効率の向上、さらにリガンド分子(環状RGDペプチド)の導入効果を確認することができた。一方、シェル設計に関しては、スマートシェル材料として開発を進めているpH応答性ベタインポリマー[PGlu(DET-Car)]に関して、分岐型ポリエチレンイミン(bPEI)への導入反応を行い、bPEIとプラスミドDNA(pDNA)のコアがPGlu(DET-Car)のシェルで覆われた高分子ミセルを構築した。本ミセルは、PEGシェルを有するpDNA内包ミセルと比較して、腫瘍内pH環境でより効率的ながん細胞による取り込みとエンドソーム脱出に基づく高い遺伝子発現を確認することができた。以上のように、R4年度においては当初計画通りに研究が進み、関連分野に大きなインパクトを与える研究成果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
R4年度は、当初計画にしたがって順調に研究を進めることができた。コア設計に関しては、タンニン酸を利用した三元系高分子ミセルによって、抗体の細胞内デリバリー、OVAデリバリーによるがん免疫治療への展開、RNPデリバリーによるin vivoゲノム編集への展開に関して、基本概念の有効性を実証することに成功した。AAVデリバリーに関しても。当初目標としていた中和抗体存在下での遺伝子発現、肝臓等の正常組織での遺伝子発現の抑制とがんでの遺伝子発現効率の向上、さらにリガンド分子の導入効果を実証することができた。これらの生理活性タンパク質およびウイルスベクターのデリバリーのための高分子ミセルに関しては、今後、具体的な疾患モデルを用いた機能検証と目的に応じた高分子ミセルのコア設計の最適化を進めていく。一方、シェル設計に関しては、pDNAのデリバリーへと展開し、pH応答性ベタインポリマーがPEGの課題(PEGジレンマ)を克服できるシェル材料として有用であることを明らかにすることができた。本システムに関しては、現在、固形がんモデルの治療実験を進めており、今後はmRNAデリバリーにも展開していく予定である。以上のように、コア、シェル設計のどちらに関しても、当初計画通りに研究が進み、期待通りの結果が得られている。
高分子ミセルのコア設計に基づく生理活性タンパク質およびウイルスベクターのデリバリーに関しては、in vivoでの機能検証とポリマー構造の最適化を進めていく。例えば、RNPデリバリーに関しては、td-Tomatoマウスを用いたゲノム編集の特異性の評価を進める一方で、さらなる三元系ミセル安定化とエンドソーム脱出効率の向上に向けたコアのポリマー構造の検討を行う。また、抗原タンパク質内包ミセルのがんワクチンへの応用に関しても、最適化したポリマーを活用し、エンドソーム脱出効率の向上と細胞性免疫の融合による抗腫瘍効果の改善を目指す。同様に、細胞内抗体のデリバリーにも関してもポリマー構造のさらなる最適化を進める。これらの研究を通じて最適化された高分子ミセルに関しては、疾患モデル治療における有用性を実証する予定である。また、AAVデリバリーに関しては、三元系ミセルを形成するポリマー構造の検討(ブロック共重合体の組成や分岐型PEGの利用など)に加え、血友病等の治療への展開を視野に入れてGalNAc等の肝臓標的化リガンドを搭載したAAV内包ミセルを構築し、その機能評価を実施する予定である。一方、シェル設計に関しては、pDNA内包ミセルに関して、血中滞留性、がん集積性等のin vivo機能評価に加えて、sFlt-1(可溶型血管内皮増殖因子受容体-1)のデリバリーに基づく固形がんの治療効果を検討する。さらに本システムのmRNAデリバリーに関しても検討する予定である。
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Biomaterials
巻: 掲載決定 ページ: 印刷中
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