研究課題
脳動脈瘤とは,脳血管の局所的なコブである.脳動脈瘤の発生仮説として,本研究では「血管組織内力学場の異常変化が脳動脈瘤の真因である」という新仮説『構造説』を立てた.本研究では,計算科学と生物科学を一体化させた新たな方法論をもとに『構造説』の実証を目指す.2023年度では以下(1)~(4)の研究を行った。(1)ラットから単離した血管平滑筋細胞に流れを負荷しながら培養した。結果を見ると、平滑筋細胞のphenotypeマーカであるCalponinとMoesinが共に上昇した。これは、平滑筋細胞が収縮性と合成性を併せ持つようなphenotypeに変化することを示しており、過去の報告にはないものである。(2)ラットから取り出した大動脈に流れをかけて12時間培養する実験を行った。これにより、細胞外マトリクスを分解するMMP2と9が上昇することを期待していたが、全く上昇は認められなかった。このことから、壁面せん断応力では血管組織の破壊は起こらず、血管壁内応力が脳動脈瘤の発生に影響している可能性が示唆された。(3)超音波顕微鏡の計測法の確立を行った。データ不安定を削減し、再現性の高い計測プロトコルの作成した。また、濃度を変えたコラーゲンゲルに対して、超音波顕微鏡と原子間力顕微鏡による計測を行い、音響インピーダンスとヤング率との相関関係式を導出した。(4)ラット大動脈分岐部にエラスターゼで動脈瘤を誘発し、若齢(10-20wk)と老齢(70wk以上)で血管形態や組織性状を比較した。両群(術後1週間、若齢・老齢)において肥厚壁と菲薄壁が共存するような所見が認めれた。また、老齢に限り血管壁の破綻による血餅が確認できた。これは、老化による物性低下または修復機能低下が原因と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
血管組織における力学場の解析は十分進んでおり問題ない。超音波顕微鏡の校正に時間がかかっており、その点で物性計測がやや遅れているが、やり方については目途が立っている。
血管組織の物理特性の定量化と力学刺激に対する血管組織の反応解析を本年度の主ターゲットとする。血管組織の物理特性の定量化においては、超音波顕微鏡により計測される音響インピーダンスデータをヤング率などの物理特性に変換するための式の精緻化に励む。また、原子間力顕微鏡を入手したので、それを用いて、本研究が対象とするOA-ACA血管部の組織の物理特性計測を試みる。特にここでは、OA-ACAに存在するintimal padに焦点を当てる。一方、力学刺激に対する血管組織の反応解析では、血管組織に流れや伸張などを付与しながら生体外培養することで、組織の反応を調べる実験を行う。解析では、CalponinやMoesinを調べることで平滑筋細胞のphenotype変化を明らかにするとともに、extra cellular matrixを分解するMMP2と9の発現が増強するのかどうかについてreal-PCRで調べる。血管組織の実験についても、昨年度行った実験を継続し、菲薄壁が維持されるか否かを確認するとともに、菲薄壁と肥厚壁のひずみの違いを定量的に調べる。
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