研究課題/領域番号 |
22H02110
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
橋本 雅彦 同志社大学, 理工学部, 教授 (20439251)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ドロップレットデジタルPCR / マイクロ流体デバイス / ドロップレット |
研究実績の概要 |
ドロップレットデジタルPCR(Droplet Digital PCR; ddPCR)は、リアルタイム定量PCRと比べて、検出感度と定量精度に優れるが、原因不明のレインドロップレットが発生してしまうため、完全な定量真度を有した定量PCR法とは成りえていない。レインドロップレット発生因の一つとして、ddPCR実験の操作工程におけるドロップレットの単分散性の低下が指摘されている。この単分散性の低下の主要な要因は、マイクロピペットを用いたマニュアル的なドロップレットのハンドリングにある。そこで本研究では、まずddPCRにおけるマニュアル的なドロップレットのハンドリングを必要としないマイクロ流体カートリッジを新たに作製した。 上記のマイクロ流体カートリッジは、ドロップレット調製用のポリジメチルシロキサン(PDMS)製マイクロ流体シートであるトップレイヤー、および、ポリカーボネート製シートと薄板ガラス(厚み0.145 mm)を粘着フィルムでアッセンブルした反応チャンバーを有するボトムレイヤーより構成されている。トップレイヤーで生成したドロップレットはオンラインでボトムレイヤーに運ばれ、ガラス基板上にて単層となり広がった。この状態でフラットベッド型PCRサーマルサイクラーへカートリッジを設置しPCR増幅を行った。PCR増幅後にカートリッジを顕微鏡のステージに設置し、蛍光イメージングを行った。得られた蛍光画像には蛍光オンと蛍光オフのドロップレットが観察された。蛍光オンのドロップレットの割合を調べ、ポアソン回帰より予測されるDNAのコピー数を見積もったところ、調製時に加えたコピー数と良好な一致を示した。以上のように、開発したマイクロ流体カートリッジを使ってドロップレットのマニュアルハンドリングを必要としないddPCR実験を実行可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通常のddPCRの操作プロトコルで必須となっているマイクロピペット等を用いたドロップレットのマニュアル的なハンドリングは、ドロップレットの合一を引き起こし、ドロップレットの単分散性を低下させる。このドロップレットの単分散性の低下は、ddPCR分析法の定量真度の低下に直結するため、ドロップレットのマニュアルハンドリングを必要としないddPCRマイクロ流体カートリッジを新奇に開発した。 本カートリッジのインレットリザーバーに水相と油相をそれぞれ加え、独自開発したマイクロポンピングシステムによってマイクロ流体を制御することで単分散性の高いドロップレットを高速に作製することに成功した。作製されたドロップレットは、本カートリッジ底面の薄板ガラス状に単層となって配列される仕様となっているため、本カートリッジごとフラットベッド型のPCR装置に設置し、PCR増幅を実行することが可能であった。また、PCR増幅後のカートリッジを顕微鏡のステージ上に設置し、ドロップレットサンプルをダイレクト蛍光イメージングすることに成功した。 以上のように、ドロップレットのマニュアルハンドリングが完全に排除されたddPCRプロトコルを確立することに成功しており、ddPCR分析法の定量真度の向上に期待が膨らむ。
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今後の研究の推進方策 |
前述したマイクロ流体カートリッジが、ddPCR分析法の定量真度の向上に寄与するか検証を行う。また、このカートリッジには、高速PCRプロトコルの適用が見込めるため、PCRサイクルの高速化がレインドロップレットの発生頻度に影響を及ぼすか検証していく。さらに、ドロップレットのサイズが、蛍光オンと蛍光オフのドロップレットクラスターの分離度に及ぼす影響についても調査する。 上述のPCRサイクルの高速化およびドロップレットサイズがddPCR分析結果に与える効果については、まず特定の標的配列に対して検証を行うが、これらがddPCR分析結果に確かに影響を与えることが示された場合、それがddPCR分析において普遍的に見いだせる結論なのかという点を検証するために、複数の標的配列に対しても同様の実験を行う。
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