非天然アミノ酸をUAGコドンに割り当てた大腸菌を用いて変異の蓄積実験を行った。遺伝子内にUAGコドンへの変異が生じた場合には、この変異位置に非天然アミノ酸がとりこまれたタンパク質が生じる。このような非正規変異がゲノム中に蓄積するかを検証した。古澤力博士(東大、理研)との共同研究の成果である。非天然アミノ酸としては AlocLysOH、3-ニトロチロシン、および3-ブロモチロシンを使用した。これらの非天然アミノ酸をそれぞれコード化した大腸菌B-95.ΔA株(よって3種類)を作成し、これらのアミノ酸が実際にタンパク質に取り込まれることを確認するとともに、これらのアミノ酸の導入効率を調べる実験を行った。これらの非天然アミノ酸の中でもAlocLysOHは、正確にはアミノ酸ではない非アミノ酸(ヒドロキシ酸)であることから本研究で最も興味深いターゲットであり、とくにタンパク質産物の質量分析や導入効率の詳細な解析を行った。また、非正規変異の蓄積が最も多かったものがAlocLysOHであったことから、以下の2つの結論は主にAlocLysOHについて得られた結果に基づくものである。(1)非天然アミノ酸を導入する分子システムは人為的なものであり大腸菌からは外部的な性格を持っているが、1400世代に及ぶ継代を経ても安定に大腸菌に保持された。(2)非アミノ酸であっても非正規変異の蓄積によって大腸菌プロテオームに入り込むことが許容されることが示された。通常のアミノ酸どうしの正規変異と比べても、AlocLysOHをタンパク質に導入する非正規変異の発生率が有意に小さいということはない。これらの結果は、人工的なアミノ酸であっても、非正規変異を通じて生物のプロテオームに蓄積できることを示している。このような非天然アミノ酸の性格は、選択圧が存在するときには生物進化を効率よく助長できると考えられる。
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