研究課題
EBウイルスゲノムとホストゲノムの直接的相互作用によるヘテロクロマチン構造破綻のメカニズムを解明するため、ウイルス感染後におけるエピゲノム変化の更に詳細に解析を進めた。これまで解析を行っていたH3K9me3、H3K27me3以外にヘテロクロマチン領域に入ることが知られる抑制的ヒストン修飾であるH3K9me2、H4K20me2、H4K20me3、抑制領域に結合する Lamin A/C、Lamin B1、ヒストンH1バリアントのChIP-seq解析を行った。更に活性化ヒストン修飾として新たにH3K36me2、H3K36me3のChIP-seq解析を行った。ヘテロクロマチン領域に入るヒストン修飾や結合因子においては、これまで確認していたH3K9me3以外は特に顕著な変化を認めなかった。一方で活性化修飾であるH3K36me2がEBウイルスゲノム相互作用領域において顕著に上昇していることを確認した。以上の結果からウイルスゲノムとの相互作用によるヘテロクロマチン破綻領域では、H3K9me3からH3K36me2の置き換わりが起きていることが示唆された。また、胃癌で確認したウイルスゲノム相互作用領域におけるエピゲノム変化について他のEBV関連腫瘍である上咽頭癌、バーキットリンパ腫においても解析を進め、その全てにおいて胃癌と同様のヘテロクロマチン構造の変化を確認し、我々が発見した現象がEBV感染時に広く起きていることを明らかにした。EBV感染後の時系列解析を進めるために、少細胞数でもエピゲノム解析が可能となるCUT&Tag法の確立を進め、感染前細胞において少細胞数でのヒストン修飾の解析を行った。また、EBVゲノム上の機能領域を同定するため、EBV陽性細胞株に標的特異的エピゲノム抑制タンパク質であるdCas9-KRABを誘導し、標的領域の抑制ができることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
これまで5種類のヒストン修飾のみについて解析を進め、EBウイルス感染後のエピゲノム変化を解析してきたが、当初予定よりも多くの12種類のヒストン修飾やクロマチン結合因子の解析を進め、より広範な変化を明らかにすることができた。また、胃癌以外のEBV関連腫瘍におけるクロマチン構造解析、エピゲノム解析を進め、胃癌と同様のクロマチン構造破綻を確認し、本研究の対象であるウイルス-ホストゲノム相互作用によるホストクロマチン構造破綻がEBV感染細胞に共通する現象であることを明らかにした。以上の進展は当初計画にはなかったが新たに進めた解析であり、予想以上の結果を得たと言える。一方でウイルス感染後の時系列解析やウイルスゲノム結合因子の解析が当初予定より進んでいないため、今後はこちらの計画を進めていきたい。
EBV感染後の時系列解析について、ウイルス感染効率が低く、施行が難しかったため、少細胞数でもエピゲノム解析が可能なCUT&Tag法を立ち上げ、少細胞数での解析が可能となった。今後、感染後のヒストン修飾解析を進め、どの変化が最も早く起きているのか、解析を進める。EBVゲノム上の機能領域探索を行うため、EBV陽性細胞株へ標的特異的エピゲノム抑制タンパク質であるdCas9-KRABを誘導し、標的領域の抑制ができることを確認している。今後、EBVゲノムの機能領域を標的としてガイドRNAを設計・誘導し、EBV上の機能領域の同定を進める。EBVゲノム上の機能領域結合タンパク質について、上記解析にて機能領域が同定出来次第、質量分析による結合タンパク質解析を進めたい。
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