研究課題
本研究は霊長類における社会機能と腸内細菌叢との関係を解明するため、社会行動をヒトと共有するマーモセットを対象とし、生理活性物質が腸内細菌叢、各種社会行動、生理的指標、代謝物に与える影響を評価することを目的とする。本年度は基盤データの取得と、行動評価課題群および装置の開発を行った。基盤データの取得としては、申請者が管理し、今後のベースラインデータとなる飼育コロニーと、参考として他施設のコロニーの腸内細菌叢を解析した。-80度で凍結保存した糞便サンプルから16S rRNAシークエンスを行い、細菌数、細菌叢系統樹の作成、細菌の属や種の同定を行った。マーモセットの腸炎の原因菌や、近年問題となっている十二指腸狭窄症と相関を持つ菌は両コロニーにおいて確認されなかった。分類階級ごとの細菌の存在比率を算出した結果、Bacteroidetes、Firmicutes、Actniobacteria、Fusobacteria門が多くの個体において優勢であった。健康状態別に分けたところ、感染症、慢性嘔吐個体、低アルブミン血症の個体では健康個体で見られない構成になっていることが分かった。年齢、性別よりも健康状態により腸内細菌叢の特徴が異なることが明らかになった。また、血液を採取し、血液生化学、血球数に関する基本的なデータを取得した。個体ごとに大腿静脈から0.3mlの採血を行ったところ、高齢化にともない腎機能の低下を示す変化がみられた。日常の飼育管理記録からは、体重、活動性、便の性状、体毛、外貌などの所見の情報を取得した。つがいで生活している場合、餌の競争や選好みによる偏食が生じることが複数見られた。これらのことから、腸内細菌叢は施設ごとに基本的特徴を有し、さらに個別の社会的なダイナミクスが、腸内細菌叢や生理指標に影響を与えていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
腸内細菌叢解析では、別コロニーの糞便採取に時間がかかったものの、解析そのものはこれまでに構築した解析プログラムを利用するなどして、順調に進めることができた。血液採取により生化学的状態や血球数を調べたところ、見えていなかった疾患が明らかになることが度々あった。これにより早期に投薬などの対応を取ることができ、継続して健康状態を保つことにより、行動データ取得が可能になった個体があった。テクニカルスタッフと協力することにより、血液採取、行動実験を効率的に進めることができた。
2023年度に申請者の所属機関が変わり、同年度後半にマーモセットの飼育施設と実験施設の移動、移設を計画しており、テクニカルスタッフを含め、研究遂行環境に大幅な変化が生じる見込みである。経験的に、移動後しばらくの間は動物の健康状態と施設環境の安定化に注力することになると予想している。そのため、2023年度はできるだけ多くのことを移動前に遂行できるよう、あらかじめスケジュールを組んでおく。設備等は新しい実験室で再構築できる予定のため、年度内に実験室を整備し再始動させ、今後も実験計画を円滑に行うことのできる体制を作る。
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PLOS ONE
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