「変異」にはvariationとmutationの意味があり,遺伝学geneticsを学ぶ上でvariationの概念の習得は重要である。しかし,高校生を対象としたアンケート調査の結果,「変異」の説明として「形質が変化する」といった記述が最も多く,「違い」や「異なる」ことに着目した記述は少数であり,「変異」に対して暗いイメージがある生徒は少なくはないことが明らかになっている。そこで本研究では,mutationによってvariationが得られることを生徒が学習することを目的とし,イネの胚乳の形質に関する遺伝子を題材とした実験教材の開発を行った。まず,本研究で題材とする遺伝子を検討し,イネの形状(長粒か短粒か)に関与する遺伝子(GW5)と,アミロース含有量に関与する遺伝子(Wx)を題材とした。この遺伝子を扱うことで,塩基の欠失,重複,一塩基置換といった変異のパターンと,一塩基置換によるスプライシングへの影響についての学習が期待される。生徒による実験を行うために,市販の精米からDNAを抽出する方法を検討したところ,コンタクトレンズ用タンパク質分解酵素を用いる簡易な方法でDNAを抽出できることが分かった。簡易な方法で抽出した5種類のイネの胚乳のDNAを鋳型として,今回,設計したWx遺伝子の多型の一つであるWx-a検出を含む4種類のプライマーを用いてPCR法により増幅し,電気泳動法にて5種類のイネの配列の差を確認することができた。実験終了後の振り返りでは,「変異」に対するイメージに変化が見られ,また,変異に関する興味関心だけでなく新たに生じた問いの記載がみられたことから,mutationからvariationを学ぶ教材としての可能性が示唆された。
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