本研究の目的は,国際バカロレア(IB)の中等教育プログラム(MYP)を手がかりに,概念理解を重視した探究型の社会科授業を開発し,その特徴と効果を明らかにすることである。 IB機構による公式文書から,概念と探究という観点でのMYPの授業設計の主な特徴として,以下の3点が挙げられる。教科横断で用いる「重要概念」と教科ごとの「関連概念」がリスト化されていること,それら複数の概念を組み合わせて単元の「探究テーマ」を設定すること,その「探究テーマ」に基づいて「事実的問い」「概念的問い」「議論的問い」の3種の問いを立てることである。 MYPの単元計画の方法にそって学習指導要領の「中世の日本」の内容を扱う単元を計画し,中学1年生を対象に授業を行った。システム・統治・対立・協調の4つの概念を用いて「探究テーマ:様々な集団間の対立と協調は統治の仕組みに影響を与える」を設定した。単元終了時に,「探究テーマ」をふまえて中世がどのような時代かを論述させ,共起ネットワーク図を作成して分析を行った。その結果,単元で扱ったMYPの4つの概念と,武士・大名・幕府などの語が強くむすびついており,全体の傾向として生徒は概念を中心として中世の学習用語を関連づけて説明していることが読み取れた。また,個別に生徒の記述を見ると,多くの生徒が概念に関連する適切な中世の具体例を挙げながら「探究テーマ」を説明することができていた。以上のことから,MYPの方法にそった単元は,概念理解という点で一定の効果があったと考えられる。 MYPの概念は,複数の単元や教科で繰り返し学習して理解を深めていくものとされている。そのため,今回扱った概念の理解をより深めることを目指して別の単元を開発し,概念理解の変化を検証することが今後の主な課題である。
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