研究実績の概要 |
本研究の目的は、行動経済学的アプローチによるジェンダー教材を開発し、授業実践の結果を効果測定することで、教育現場におけるジェンダー格差の克服を目指すことである。これまでのジェンダー教材は正しい知識・技能を習得すればジェンダー平等が解決に向かうことを前提としており、無意識的なバイアスがあるために格差が存在することには踏み込まれていなかった。筆者は行動経済学の見方・考え方を授業に取り入れることで生徒が社会的事象をより深く捉えられるという仮説のもと、教材の開発・実践及び検証を行なった。 行動経済学の知見を用いたジェンダー教材には心理学者のTversky, A. and D. Kahneman(1983)が発案したいわゆる「リンダ問題」と有名なジェンダー・ステレオタイプに関する事例をクイズにして取り入れた。これにより、生徒は職業選択とジェンダー・ステレオタイプには根強いバイアスがあることを体感し、実は合理的と思える判断にも無意識のバイアスがあることを理解することが出来た。 本研究の成果は二点ある。第一に、これまで行われてこなかった行動経済学の知見を用いたジェンダー教材を開発、実践したことである。第二に、多くの生徒が無意識に根付く固定観念やジェンダー平等を実現する困難さを理解し、格差解消の政策提案ができたことから、授業の一定の有用性を確認できたことである。 ジェンダー格差がなくならないことは無意識のバイアスだけで説明できるものではないが、行動経済学の知見を用いることで社会的事象をより現実に即して捉え、その上でどのようなことが出来るのかを提案できるようになることが検証できた。今後は内容の深化と対象範囲の拡大を追跡研究の対象としたい。
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