先天性の色覚異常を持つ人は,日本人では男性の20人に1人,女性の500人に1人いると言われている.色覚特性には3つのタイプがあり,程度にも個人差があるが同系色の違いを見分けるのが困難である.また本人に自覚がない場合もあり,近年すべての人に見やすいように配慮をした,色のユニバーサルデザインが増えている. 一般に化学分野では色変化を識別する実験手法が多く存在する.本校の生物応用化学科でも,色変化の識別を伴う学生実験を多く実施している.例えば中和滴定実験でメチルオレンジ指示薬を用いた場合,赤色から橙色への色変化の識別を要する.そこで色の識別が困難な学生が色変化を音で確認できれば,本来習得すべき実験操作に集中できると考えられる.また学生の精神的負担も軽減できる.本研究では,色覚障害をもつ学生への実験補助教材として,色変化が起きた時に音で知らせる識別システムを構築することを目的とした. 定量分析法の一つである滴定は呈色指示薬を用いる.滴定操作ではビュレットで標準溶液を滴下し,反応溶液が色Aから色Bに変色した状態になる点を終点といい,滴下を止めるタイミングであり,色の識別を伴う.本研究は,実験補助教材として終点を知らせる色変化識別システムの構築に取り組んだ.本システムは滴定中の溶液が入ったフラスコをカメラで撮り,ノートパソコンのディスプレイにリアルタイム表示する.ディスプレイ上でカーソルを溶液の上に位置し,RGB値(色の情報)を取得する.溶液の色が設定した色と判断したらパソコンから音を出力し,滴定が終了したことを知らせる仕組みである. まず滴定実験の色の継時変化をあらかじめ撮影し,RGB値を取得し閾値の設定をした.次に実際の実験装置を撮影し,カーソル位置のRGB値を取得した.閾値の範囲内に入るか否かの判定を行い,色変化の閾値の範囲内であれば音を出力し終点を知らせるプログラムを作成した.
|