本研究では,中学校数学科における自己調整学習に基づいた自律学習を促進する自己省察方法の検証のために3つの実践研究を行なった. 1.数学の授業時間(週2単位)に実施する頻回の小テスト受験による学習効果と,テストにおける自らの解答の自信度を記録する習慣を通し,中学校数学科における生徒の自己モニタリング力の向上を目指した. 2.学校設定科目SD(自学自習,週2単位)を活用して,自己省察を促す質問紙調査を定期的に実施した.調査項目に,自己効力感を問う設問を加え,学習者の自己効力感の変容を検証した. 3.良質な自己省察のためのポートフォリオは自己調整力の育成が期待できることから,先行研究を踏まえて,学期の目標, 小テストの記録,自主学習の授業の記録,提出物や活動の記録の4点を記入する「SRLシート」を開発した.1ヶ月の使用期間後に質問紙調査を実施し,シート使用感と効果的な場面,媒体とシートの省察支援における主観的な活用効果を質問した.さらに,ポートフォリオの作成・実施にはICTの活用が提言されるが,ICTを活用したポートフォリオの効果や生徒の使用感,さらに,アナログとデジタルによる媒体の違いが自律学習を促進することにどのような影響があるかを検証した. 研究成果として,頻回の小テスト受験による学習効果と自己省察による自己調整力の育成について,生徒はシートの効果を肯定的に捉えている.しかし,シート記入前後での考査得点偏差値の差分については相関は認められなかった.さらに,ICTの取り扱いに長けている集団であっても,ポートフォリオに適する媒体として,デジタルとアナログの媒体の差は認められなかった.今後は,媒体の併用・選択など個に応じて活用できる使いやすいポートフォリオの設計を目指すとともに,自学自習での活用頻度が高い生徒と低い生徒で媒体の好みに差がある傾向が見られたため,その違いを分析する.
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