研究実績の概要 |
近年,内燃機関用インジェクタや医療機器分野において,難削材への小径穴あけ加工の要求が高まっている.本研究では難削材への小径ドリル加工を対象とし,超音波振動を援用することによる刃先の温度の関係を実験的に調査した. 被削材はTi-6Al-4Vを用い,直径0.1 mmのクロメルおよびコンスタンタンエナメル素線を穴あけ方向に沿って埋め込んだ.なお,これらの素線はオープン状態であり,ドリルの刃先がこれらの素線を断ち切った際に瞬間的に形成されるホットジャンクションから生じる起電力を取得した.すなわち,本方法によって刃先近傍の温度および加工進展に伴う温度変化が取得できることになる. この測定手法を用い,直径2 mmのノンコート超硬ドリルを用いた加工実験を実施した.加工条件は,主軸回転数5,000/min,送り速度10 mm/minとし,被削材に超音波振動を周波数22.2kHz,両振幅2μm, 4μmで重畳した.また,切削液による影響を排除するためドライ加工で実験を行った.その結果,慣用加工は300 ℃であったのに対し,超音波振動を援用したドリル加工はいずれも380~400℃であり,超音波振動を援用しても温度が上昇する結果となった.しかしながら,今回のように切削速度が遅く,被削材の再結晶温度以下の加工となる場合,凝着摩耗が促進することがある.そのため,あえて刃先温度を上昇させるような加工を行っても摩耗が抑制できる可能性があると考えられる.今後は,本研究で確立した温度測定方法を用い,刃先摩耗との関連を明らかにする予定である.
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