サファイアは高硬度,耐摩耗性,高温安定性,化学的安定性などに優れた材料である.現在は軸受,窓材,LED用基板などに用いられている.しかし高硬度であるためその加工は困難であり,加工効率が悪く,加工コストが高い.さらに現状の加工方法では,平面もしくは平面を組み合わせた形状にしか加工できない.以上のことからサファイアを3次元的にかつ安価に加工する方法の開発が望まれている.ところでサファイアは化学的に安定であるが,高圧下ではSiO2と接触した界面で化学反応を起こして複酸化物を生成することが知られている.この現象,すなわちメカノケミカル反応を利用して,サファイアに対して所望の3次元的形状に加工をすることを目的とした. 実験は回転するガラス円板に対して,サファイアを一定の送り速度で押しつけるようにした.実験の結果,サファイアに対しガラス円板の端面の形状を転写するように,溝加工することができた.加工体積は500sの加工で0.03mm^3であった.加工したサファイアの溝は鏡面であった.この溝をAFMを用いて表面粗さを測定した.得られたサファイアの面粗さはSa=1.38nmであり,CMPと同程度の面粗さである. 本研究の加工方法をCMPと比較する.CMPは,もともと数nm程度の表面粗さから加工を始めなければならない.一方,本研究の方法は,CMPに比べると粗い面から始めることができるにもかかわらず,CMPと同程度の1.38nmという面粗さが得られる.単位時間当たりの加工深さ(MRR)は,CMPの0.387μm/hに対し,本手法は216μm/hである.本手法ではCMPと同程度の表面粗さをCMPよりはるかに粗い面から開始して著しく大きな加工量で得ることができる.
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