〇研究目的 害獣に単一的な追い払い対策を継続しても,害獣は対策に馴れてしまうため,長期的には十分な成果が見込めないことから,馴れの度合いに応じて自動的に対策を変更するシステム構築が望まれている.そこで本研究では,害獣の種類・個体の識別および対策馴れの度合いを検出する手法として画像解析技術の有用性について検証した. 〇研究方法 害獣被害が最も多く発生する夜間に撮影した画像を解析して害獣を識別するため,解析対象には熱画像を採用した.熱画像は,鹿児島市平川動物公園に飼育されているシカを対象として撮影し,相対的な温度の値を色相に対応させて表現(シュードカラー)したものを使用した.解析手法には,比較的短い学習時間でメモリ負担が少なく,データを構造的に扱いやすい遺伝的アルゴリズムを用い,世代数1000,個体数50,交叉率0.5,突然変異率0.02で実験を行った.尚,本研究では園の飼育員の方でもシカの個体識別が難しいこと及び飼育シカへの追い払い対策を実行できないことから,熱画像からシカを抽出し,認識するフィルタの生成とその適応度を基に評価を行った. 〇研究成果 通常のカメラで撮影した原画像を用いた場合の適応度は平均で0.767であったのに対し,熱画像を用いた場合の適応度は平均で0.871と原画像より高い値を示した.これは,熱画像は,シカと背景との温度差により色相がはっきりと分かれるため,シカの輪郭を捉えやすいことが要因と考えられる.また,シカの大きな特徴であるツノが低温であるため,熱画像では背景に取り込まれてしまう点を,シカのツノを形どった目標画像を用いて学習させることで,適応度は0.96まで改善できた.本実験では,比較的明るい環境下で撮影された画像を基に実施したが,今後夜間に撮影した画像で作成したフィルタの有用性について検証を進める予定である.
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