固形墨は、奈良県の特産品(奈良墨)であり、煤(すす)と膠(にかわ)の混錬に次ぐ成型、乾燥により作成されるキセロゲルであることが知られている。我々は固形墨作りからヒントを得て、フラーレン、カーボンナノチューブ(CNTs)、ナノダイヤモンド、グラファイト、グラフェンなどの煤にとらわれない炭素材料を組み合わせて、用いることにより、膠を活用した炭素材料が分散したキセロゲルの作成に成功した(図1)。また、作成したキセロゲルを電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、キセロゲルの表面状態を明らかにした。さらに、硬度計でキセロゲルの押込み硬度を、抵抗率系で表面抵抗率はかり、表面状態との関係を考察し材料への応用を指向した。さらに、2種類の炭素材料を巧みに組み合わせることで複数の炭素材料が分散したキセロゲルを作成することに成功した。 この成果は、身近な材料と道具のみを用いて、伝統的な手法を駆使し、種々の炭素材料の様々な物性を有する新規キセロゲルすなわち“墨”を極めて簡便に環境負荷なく調製できることを意味しており、非常に興味深い手法であると言える。 フラーレン、カーボンナノチューブ(CNTs)、ナノダイヤモンド(ND)、グラフェンなどの炭素材料はその興味深い構造的および電気的特性から盛んに研究され、医薬品や電子材料をはじめとする種々の分野での活用が強く期待されている。 作成したキセロゲルはこれまでに実際に調製されたことのないキセロゲルであり、物性に強い興味が持たれ、今後の材料への活用に強い興味が持たれる。また、本手法は簡便かつ効率の良い新たなカーボンナノチューブの分散法としての可能性がある。さらに、本キセロゲルは摺ることで墨としても活用でき、新奇の墨として書道に用いることができる。
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