研究実績の概要 |
頭頸部癌で喉頭全摘出術を受けた患者の代用音声はいくつかあるが,いずれも患者の声を再現できないためQOLの低下をきたす.そのため,自分の声に類似した合成音声を作ることができるスマートフォンアプリケーションを用いて,術後患者に音声合成アプリと電気式人工喉頭の使用における自覚的評価行った. 結果,6例中4例が他のコミュニケーション手段と併用しながら音声合成アプリを活用することができた.合成音声使用に関するアンケートでは,合成された音声と患者の元の音声の類似性に対する高い満足度が明らかになった.しかし,患者は音がでるまでの時間や操作に不満を示した.次に術前後のVHI,V-RQOLの平均値を比較したところ,VHIはどの側面でもQOLが低下しており,側面間での有意差は認めなかった.V-RQOLは術前98.1%に対して術後61.9%と低下し、さらに従来の代替音声を使用した患者の平均よりもわずかに低下していた.これは,患者の音声合成アプリに対する期待度の高さや音声合成アプリに期待したものの,日常生活にて十分に使いこなせていなかったことが影響したと考えられる. 音声合成スマートフォンアプリによって復元できる音声の品質は,驚くべきものがあるが,患者のニーズに応えるためには,患者のフィードバックをもとに開発企業や他施設と協議しながらアプリを常に改善していく必要がある.また,合成音声を用いた代用音声が広く普及するためには,使用をサポートする言語聴覚士を増やすことに加え,日常生活用具などの社会助成対象となるよう行政へ働きかけていく必要がある.
|