研究目的:バンコマイシン(VCM)使用時の用法用量は患者の腎機能に基づいて設定される。この時の腎機能評価は血清クレアチニン値を利用した推算に基づいているが、誤評価を招くいくつかの因子が存在する。しかしこれらの因子による影響を適切に補正できれば、極めて有用な腎機能評価法であることは間違いない。そこで本研究では、VCMの投与量設定への適用を企図した、救急搬送患者の血清クレアチニンによる腎機能評価の新規補正法を目的とし臨床研究を行った。 研究方法:研究対象者は、宮崎大学医学部附属病院救命救急センターに入院し、VCMが点滴投与され、VCMの血中濃度が測定された患者とした。研究対象者の患者情報は、宮崎大学医学部附属病院で使用されている電子カルテより後方視的に収集した。対象患者のVCM投与開始時点およびVCM血中濃度初回測定時の患者情報を基に、PPKモデル(既報)に基づくVCM血中濃度シミュレーションにおいて実測血中濃度によるベイズ推定からクレアチニンクリアランス(CLcr)を逆算した。この逆算CLcrに対し、VCM投与開始時点の患者情報からCockcroft-Gault式で算出したCLcrが乖離した症例を腎機能誤評価群とした。対象患者を腎機能誤評価群と評価適正群に分け、2群間のVCM投与開始時点の患者情報を比較し、腎機能誤評価に至るリスク因子を解析した。 研究成果:研究対象者を腎機能過大評価群と適正評価群に分けた場合において、VCM投与開始時点の血清アルブミン値とCRP値に関して、2群間で差異が認められた。これらの因子の影響力についてさらなる検証を進めており、現在、機械学習ならびに深層学習環境を利用した救急搬送患者の血清クレアチニンによる腎機能評価の新規補正法を検討している。
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