がん患者におけるアルコール摂取の化学療法の治療効果への影響は未だ明らかでなく、患者の飲酒習慣の指導に利用できる根拠は乏しいことから、慢性骨髄性白血病(CML)患者のBcr-Abl阻害剤による治療に対する毎日のアルコール摂取習慣の影響を評価した。 2005年1月から2020年2月の期間に日本の被保険者のデータベースに登録された、Bcr-Abl阻害剤で治療されたCMLの787人の患者を対象に、アルコール摂取習慣およびBcr-Abl阻害剤治療の期間の関連を検討した。Bcr-Abl阻害剤治療期間は飲酒習慣がまれな患者に比べ、毎日の飲酒習慣のある患者で有意に長いという結果が得られた。さらに患者背景について検討を行ったところ、肝機能が正常であるか否かにかかわらず、治療期間はまれな飲酒患者よりも毎日の飲酒患者の方が長かった。しかし、治療期間はまた、異常な肝機能を有する患者よりも正常な肝機能を有する患者において有意に長かった。以上により、毎日のアルコール摂取は、CML患者の治療の維持に貢献することが示唆された。また、肝機能は治療期間と関連しており、肝機能を保護することで継続的な治療が可能になる可能性が示された。 肝機能を損なわない程度の毎日の飲酒習慣はCMLの治療継続に良い影響を及ぼす可能性がある。一方で、治療の中断が副作用によるものか、治療効果の低下によるものかを判断するには、更なる検討が必要である。 今後はCML細胞株やアルコール長期曝露およびALDHのRNAを遺伝子導入(またはノックダウン)により作成したモデル細胞を用いたBcr-Abl阻害剤の薬剤感受性についてのin vitro検討を行う事を計画している。また、大規模医療情報データベースにより、飲酒と治療成績の関連性について、がん種横断的に解析することで、がん患者における適切な飲酒方法について明らかとすることを目指す。
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