新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症は世界を震撼させた。今後、当該感染症収束後に想定される「SARS-CoV-2と他のウイルスが共存する環境」を見据えると、呼吸器に感染するウイルスの二重感染に関する知見の構築は急務である。そこで本研究では、SARS-CoV-2のNucleocapsid protein(N)に注目し、SARS-CoV-2と同様に呼吸器に感染するウイルスであるA型インフルエンザウイルス(IAV)を例に、これらウイルスの二重感染における抗ウイルス分子機構を解明することを目的とし研究を行った。 まず、SARS-CoV-2の増殖に必須なNをウイルスRNA からクローニングし、強制発現させた宿主細胞を作製した。抗ウイルス応答を引き起こすIAVをN強制発現細胞に感染させると、抗ウイルスストレス顆粒(avSG: anti-viral stress granules)の形成が顕著に抑制され、同時にI型インターフェロン(IFN)産生の有意な減少が認められた。加えて、IAV感染によるプロテインキナーゼR (PKR)のリン酸化(活性化)も抑制されることが明らかとなった。さらに、Nが直接会合している宿主タンパク質の同定を試みた結果、NはIAV感染時及び非感染時どちらの状況においても、PKRと強く結合していることが分かった。 これらの結果から、Nは宿主細胞のPKRに結合することにより直接的にPKRの働きを抑制しており、結果としてIAV感染時にPKRリン酸化の下流で生じるavSG形成やIFN産生が抑制されることが示唆された。したがって、SARS-CoV-2のNが宿主細胞に発現している状況ではPKRが抑制されており、IAVが感染しても十分な抗ウイルスシグナルが機能しないことが明らかとなった。
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