○研究目的:脳の神経活動に伴ってアミロイドβタンパク質(Aβ)やタウタンパク質が生成されるが,これらの代謝物の脳内への蓄積がアルツハイマー病の一因とされている.脳内に蓄積された代謝物は,グリンファティックシステムによっても排泄されると言われている.さらにマウスの脳において,睡眠時の脳内間質腔は覚醒時の約1.6倍に拡大してグリンファティックシステムによるAβの排泄速度が増加するなど,グリンファティックシステムは睡眠にも大きく影響を受けるとされている.しかし,これらの報告は侵襲的な方法による動物実験がほとんどであり,ヒトの脳においては未解明な部分が多い.そこで本研究は磁気共鳴画像診断装置(MRI)を使用し,非侵襲的にヒトの脳におけるグリンファティックシステムをモニタリングできる画像解析法の開発を目的とし,睡眠時のグリンファティックシステムの活性度を評価可能か検討した. ○研究方法:健常成人7名を対象とした.睡眠時及び覚醒時においてMRIを使用して脳の拡散強調画像を心電図同期で取得し,心周期における見かけの拡散係数(ADC)変化(水分子揺動量に相当)を解析した(揺動MRI). ○研究成果:海馬領域の睡眠時の心周期におけるADC最大値(ADCmax)は覚醒時と比較して有意に増加した.これは睡眠時の脳実質における水分子揺動の増加を示し,その原因として睡眠時における脳血流の変化によるものではなく,睡眠時の脳間質腔の拡大によって水分子揺動が増加したことが考えられる.これらから,揺動MRIによってグリンファティックシステムの活性度を評価するための情報を取得可能なことが明らかになった.
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