研究課題
陽子線がん治療では、がんに照射する陽子線の位置や照射量を定めた治療計画を作成した後、その治療を患者に行う前に質や安全性の検証(患者QA)を行う必要ある。従来の患者QAは専用の陽子線線量測定装置に対して実際に治療ビームを照射し、得られた測定値を計画値と比較する方法が一般的である。しかし、この方法は線量測定に治療装置を使用するためマシンタイムを確保する必要があり、治療患者数を制限しなければならないという課題がある。そこで本研究は、従来の測定に基づく患者QAの代替として、簡易モンテカルロ(SMC)法を用いた計算に基づく患者QAの精度検証を目的とした。SMC法は、陽子の挙動を数値計算で個別に追跡する高精度計算法であるモンテカルロ法を簡易化したもので、高精度かつ高速な計算手法である。本研究ではまず、先行研究で開発されたSMC法が自施設の治療装置で照射される陽子線の線量分布を高精度に再現するように、治療装置固有のパラメータ登録およびSMC計算アルゴリズムの出力を絶対線量とする調整を行った。続いて直方体という単純な体系においてSMC計算アルゴリズムの計算精度を検証した。その結果、高い精度でSMC法が自施設の治療装置を再現していることが確認できた。これらを踏まえ、実臨床での使用を想定した過去の治療患者のデータの遡及的な解析を行った。測定に基づく過去の患者QAにおける測定値とSMC法の計算結果の一致度を統計的に評価した結果、過去の患者QAと同等の結果が得られることが分かり、SMC法の臨床適用における信頼性が示された。本研究により、従来の患者QAの代替としてSMC法を用いた計算に基づく患者QAが適用可能であることが示された。しかし、本研究の実臨床データによる検証は一部の治療部位に留まっている。適用可能な治療部位を拡大するため、今後更に検討を重ねていく必要がある。
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