研究実績の概要 |
残留農薬分析の前処理法として開発されたQuEChERS(quick, easy, cheap, effective, rugged, and safe)法は、法科学・法中毒分野においても有用な前処理法であり、幅広い薬物種を同時に抽出可能である。しかしながら、手動での操作が幾分煩雑であり、特に多検体処理では労力や時間を要するデメリットがある。また、近年では感染リスクのある生体試料の取扱いもこれまで以上に慎重を期すことが求められている。 本研究では、アセトニトリル塩析支援液々抽出法(抽出法1)およびそれに続く分散固相抽出法(抽出法2)に基づく2つの全自動QuEChERS法を開発し、各種向精神薬(ベンゾジアゼピン系薬物11種,カルバマゼピン,クエチアピン,ゾルピデムの計14種)の全血試料からの抽出に応用した。液体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いたバリデーション試験の結果、検量線は高い直線性(相関係数0.9997以上)を示し、pptレベルの高い検出感度、良好な精度(相対標準偏差8.6%以下)・真度(相対誤差16%以内)・マトリックス効果(81%-111%)を有することがわかった。抽出法1は抽出法2と比べて高い回収率(抽出法1:80%-91%,抽出法2:72%-86%)を示す一方、抽出法2は分散固相抽出のクリーンアップ効果により抽出法1よりも高い検出感度(抽出法1のLOD:0.025-0.47 ng/mL,抽出法2のLOD:0.003-0.094 ng/mL)を示した。本法は、血液試料をセットするだけの迅速・簡便な全自動抽出法であり、省力化・省時間化、人的エラー回避、試料飛散防止が可能な有用な前処理法といえる。今後は、他の医薬品や乱用薬物、農薬など薬物種の適用可能範囲を拡大させるとともに、前処理時間のさらなる短縮化も試みる予定である。
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