我々は外部からの視覚、触覚、前庭感覚などの多くの感覚情報(外受容感覚)を末梢の感覚受容器から受け取り、それを脳内で統合することで自己の身体を認識する。この身体認識は、視覚情報と触覚情報とを同期させることで人為的に変調できることが報告されており、自己の身体認識をゴム手に転移させる「ラバーハンドイリュージョン」が代表例として知られている。最新の研究では、ヘッドマウントディスプレイを使用し、バーチャルリアリティー環境下の視覚情報のみでも身体認識が変容することが報告されている。一方で、バーチャルリアリティー環境下での身体認識を用いた運動学習に関しては様々な報告があり、一定した見解は得られていない。 近年、上述の外受容感覚のみならず、臓器など身体内部から生成される感覚情報(内受容感覚)によっても身体認識が変容する事が報告されている。中でも、心臓から得られる求心性信号(心拍)は、身体認識のみならず運動機能にも関与する可能性が報告されている。しかしながら、内受容感覚を用いた身体認識と運動学習とを関連付けた報告はない。 そこで、本研究では、「バーチャルリアリティーを用いた身体認識の操作中に、さらに内受容感覚を付与することで身体認識の変容が強化され、それに従属してバーチャルリアリティー環境上での運動学習も変化するか?」という学術的問いを立て、行動学的ならびに神経生理学的検証を試みる。これらが明らかとなれば、新たな運動学習システムの確立へと繋がる可能性がある。 本研究課題はコロナ禍の影響により健常者を対象としたデータ収集は実施できていないが、バーチャルリアリティーの環境構築は終了し、現在直ちに実験を開始できる状態である。
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