研究課題/領域番号 |
22H04915
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 進 京都大学, 工学研究科, 教授 (10208358)
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研究分担者 |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (70793800)
吉田 昌宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (20880636)
De・Zoysa Menaka 京都大学, 工学研究科, 講師 (40740395)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / フォトニック結晶レーザー / 非エルミート |
研究実績の概要 |
従来、フォトニクス分野においては、光の散乱・放射等に起因するエネルギー散逸を、可能な限り抑制することが重要であると考えられてきた。本研究では、周期的屈折率分布を有するフォトニック結晶を舞台に、逆に、エネルギー散逸に基づく非エルミート結合を積極的に活用し、エネルギー散逸を伴わないエルミート結合と併せて完全制御し、それにより生じる物理現象を明らかにするともに、超大面積単一モード半導体レーザーや一方向性光デバイス等の画期的な光デバイスの実現を目指している。このため、(I)フォトニック結晶における非エルミート・エルミート結合制御による分散特性制御、(II)超大面積kW級フォトニック結晶レーザーの実現、(III)一方向性光デバイスの提案・実証の3項目を設定し、研究を進めている。 初年度は、まず、項目(I)、すなわち、非エルミート・エルミート結合の制御により、フォトニック結晶(特に、2つの結晶を重ねた独自の2重格子結晶)の分散特性がどのように変化するかを理論的に明らかにすることを目指し、3次元結合波理論に基づく新たな解析式を導出した。これにより、非エルミート系特有の新たな物理現象をもたらしうる結合条件を見出すことに成功した。さらに、項目(II)、(III)、すなわち、超大面積フォトニック結晶レーザーや一方向性光デバイス実現に向けて、Γ点近傍の放射係数が急峻に変化しうる分散特性を有する二重格子構造や、Γ点に例外点を有する線形分散特性を有する二重格子構造導波路の設計にも成功した。 続いて、上記の解析に基づく特異な分散関係を有する結晶の実現のための作製条件の探索とともに、作製デバイスの光学特性を高い角度分解能および波長分解能で測定可能な評価系の構築を行った。さらに、当初の予想を超えた本研究への世界的関心の高まりを受けて、電子線描画高速偏向制御システムを導入し、作製プロセスの高速化を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、上記の概要でも述べたように、具体的な研究項目として、(I) フォトニック結晶における非エルミート・エルミート結合制御による分散特性制御、(II) 超大面積kW級フォトニック結晶レーザーの実現、(III) 一方向性光デバイスの提案および実証、の3つの項目を設定し研究を進めている。 初年度である2022年度は、次年度以降推進予定の項目(II)および(III)をも含めた本研究の基盤となる項目(I)に関して、理論解析を進めるとともに、設計した格子点構造の作製プロセスの確立および評価系の構築を行った。その結果、フォトニック結晶の分散特性制御に関する体系的な理論構築に世界で初めて成功するとともに、項目(II)、(III)の応用に適した具体的な二重格子構造の設計にも成功し、次年度以降の光デバイス実証に向けた基盤を整えることが出来た。特に、分散特性制御に関する体系的な理論構築と、超大面積フォトニック結晶レーザーの設計に関する研究成果は、2022年7月にNature Communicationsに論文が掲載され、複数のメディアで取り上げられるなど、国内外から高い評価を受けた。その引用件数は、1年半余りで、48件にも達する。 また、当初の予想を超えた本研究への世界的関心の高まりを受けて、プロセスのさらなる高速化を可能とする電子線描画高速偏向制御システムの導入を、物品費の繰越により実施した。その結果、約2倍のプロセス速度の高速化が実現され、超大面積フォトニック結晶レーザー等の作製にかかる時間の大幅な短縮が可能となった。 以上により、全体として本研究課題は当初の計画通りに進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、まず、項目(I)に関して、結合係数を系統的に変化させたフォトニック結晶を実際に作製し、それらの分散特性の詳細な評価を行うことで、2022年度に理論予測を行った非エルミート系特有の分散特性制御の実証を目指す。また、複数の波数方向に例外点を形成可能な、より多様な分散特性制御の実現に向けて、理論解析のさらなる高度化にも並行して取り組む。次に、項目(I)で得られた知見をもとに、項目(II)の超大面積レーザーや項目(III)の一方向性光デバイスの実現に向けたデバイス試作・評価を行う。前者に関しては、導入した高速描画装置をも活用しながら、大面積レーザーの試作を行う。作製するデバイスは、大面積レーザー発振に適した、Γ点近傍で急峻な放射係数変化を示すフォトニック結晶を導入した直径3mmデバイスであり、その発振特性の評価を通して、分散特性制御の有効性の実証を行うとともに、既存の半導体レーザーでは実現することが困難である、単一光源における数10W級出力の単一モード動作の実現を目指していく。後者の一方向性光デバイスに関しては、(当初の計画より1~2年前倒しで)その実証を目指していく。具体的には、2022年度に設計を行ったΓ点に例外点を有する線形なバンド構造を有する二重格子フォトニック結晶を導入した細線導波路を作製し、その光放射特性スペクトルの評価を行うことで、導波路に入射する光の進行方向に応じて放射特性が大きく変化することを実証する。
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備考 |
野田研究室:http://www.qoe.kuee.kyoto-u.ac.jp/ PCSEL-COE:http://www.pcsel-coe.kuee.kyoto-u.ac.jp
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