研究課題/領域番号 |
22H04917
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩崎 雅彦 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60183745)
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研究分担者 |
野海 博之 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (10222192)
橋本 直 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (20732952)
慈道 大介 東京工業大学, 理学院, 教授 (30402811)
大西 宏明 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (60360517)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 反K中間子原子核 / 量子色力学(QCD) / KbarNN / KbarNNN / 大型ソレノイド検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、反K中間子原子核の詳細を実験的に明らかにするために、円筒型4πスペクトロメータ(CDS) をJ-PARC K1.8BRビームラインに建設する。このCDSは、超伝導ソレノイド電磁石、円筒形飛跡検出器(CDC)、中性子検出器から構成される。全立体角に感度を持たせ、多粒子同時検出に高い検出効率を持たせることで、将来的な多核子系反K中間子原子核の研究にも発展応用が可能な設計とする。 理論研究においては、カイラル動力学と散乱理論に基づく理論模型を用いて実験で観測された反応過程を詳細に記述することで、生成機構と崩壊過程を分離し、束縛状態の複素質量、構造、波動関数を明らかにする。また、共鳴状態に対する量子力学は充分に理解されているとは言えないため、崩壊する粒子に対する波動関数やその構造、特に複合性を表現する物理量など、基礎物理的な課題を解決していく。 本研究の基盤となるのが、大型超伝導ソレノイドである。限られた予算を最大限活用するため、既にKEKの低温センターが設計開発・制作した実績ある設計を踏襲する。このソレノイド作製のための準備を初年度に行った。まずは超伝導ソレノイド電磁石の設計、超伝導線材の調達、リターンヨークの製作を行った。また、円筒型スペクトロメーター(CDS) を構成する検出器の各コンポーネントの詳細設計を行い、円筒形ドリフトワイヤーチェンバー(CDC)の製作に必用なタングステンワイヤー、ベリリウム銅ワイヤー、及びフィードスルーの調達の後に、エンドプレートの製作、組立、ワイヤー張りを行い、CDCを完成させた。理論では、散乱理論を用いて反応過程を記述し"KbarNN"の共鳴極の位置や大きさを引き出す理論的基盤の整備を行った。既に得られているデータを用いてその有効性を確認するべく、実験グループとの綿密な打ち合わせを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の理論部分は慈道(東工大)を中心に順調に研究が進んでいる。実験部分は、大別して大型超伝導ソレノイドマグネット・大型ドリフトチェンバー・陽子ポラリメータの3部分で構成される新型スペクトロメータシステムを最初の3年間で作成し、4年目にシステムを統合・調整する。この新型スペクトロメータにより、5年目に実験を行い、最初の学術論文公表することを目指し、研究計画を推進している。 初年度はソレノイド磁場の一様性を確保するための鉄製リターンヨークを作成し、2年度目に超伝導ソレノイドコイルの巻線完成を目指す。3年度目に超伝導ソレノイドコイルを囲む真空容器(コールドマス)を完成させ、超伝導ソレノイドシステムを統合する予定である。この超伝導ソレノイドシステムに関しては、超伝導線材の入手がウクライナ紛争に伴い入手が極めて困難に成ったために、作成工程が半年ほど遅れているが、可能な限り全体計画の中で調整することを目指す。また、CDCに関しても、フィードスルーの調達がウクライナ紛争に伴い、当初予定より遅れ、本年度末の調達となった。ただし、設計は既存のCDCを踏襲し、2年度目の最後にCDCを完成させたため、超伝導ソレノイドシステムと同様、遅れは全体計画の中で調整することを目指す。 また、反応点近傍の飛跡を検出するための検出器(VFT)が作成された。このシンチレーションファイバを利用したVFTは、本研究課題とは独立に2024年度に行うハイパートライトンの寿命の直接測定を目的として、原研と理研との協力で作成されたものであるが、本研究課題で新規作成中のスペクトロメータでもそのまま使用可能である。今後、INFN / SMI 共同で開発する飛跡検出器と組み合わせることで、最も重要な力学領域での荷電粒子に対する検出効率と分解能をそれぞれ約2倍向上させることが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
2年度目は、初年度に調達した超電導線材を用いて、この超伝導ソレノイド磁石に用いるコールドマス及び熱輻射シールドの製作を行う。理論では、初年度に引き続き、散乱理論を用いて反応過程を記述し“KbarNN”の共鳴極の位置や大きさを引き出す理論的基盤を整備し、既に得られているデータを用いてその有効性を確認する。 一方で我々は、上記新規スペクトロメータ制作と並行して、反K中間子原子核研究に関して次に述べる2つの研究を進める。一つは"K-pp"の荷電鏡像状態である"K0bar nn"状態に関する研究である。我々は本研究課題採択以前のJ-PARC E15実験データを使ったπYN不変質量分布の解析結果より、"K0bar nn"状態が存在するという解釈と無矛盾であることを導き出している。もう一つは3核子の反K中間子原子核状"KbarNNN"に関する研究である。我々はハイパートライトン寿命測定実験実現のために現有のスペクトロメータと4He標的を使用したデータを用い、Λdn終状態を解析することにより、"KbarNNN"束縛状態の存在を示唆する結果を得ている。いずれも現有のスペクトロメータを使った実験データを用いてさらに統計精度を上げ、早々に論文として公開する予定である。
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