研究課題/領域番号 |
22H04948
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20401143)
|
研究分担者 |
小林 正起 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30508198)
Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50783594)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
|
キーワード | 酸化物 / スピントロニクス / 分子線エピタキシー / ヘテロ構造 / スピン流 / トランジスタ |
研究実績の概要 |
[1] 高効率のスピン流電流変換が可能な系の実現を目指して、従来よりオールエピタキシャルのLaSrMnO3/LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造の成膜と高品質化の研究を行ってきた。本系で、スピンポンピング実験により、正の値としては世界最高値となるスピン流電流変換効率6.7 nm の逆エデルシュタイン長を20 Kで得ることに成功していた[S. Ohya et al., Phys. Rev. Res. 2, 012014 (R) (2020) (Rapid Commun.)]。しかし、LaAlO3 は絶縁体であるため、スピン流がそこで減衰してしまい変換効率が低減している可能性を懸念していた。そこで、LaAlO3 をLaTiO3 に置き換えて研究を行った。LaTiO3 は本来は反強磁性モット絶縁体であるが、SrTiO3上に成長すると歪みの影響により常磁性の「金属」となることが知られている。本物質のような強相関物質がスピン流伝導にどのように寄与するかは不明であった。本系でスピンポンピング実験を行い、低温で193.5nm もの巨大なスピン流電流変換効率を得ることに成功した。この値は3次元系も含め全材料系での報告値の中で、最大値であった。本成果は、Nature Communications誌に掲載され、東京大学よりプレスリリースを行った。 [2] 従来、半導体を用いたスピントランジスタの研究では、良好なスピン注入やバリスティック伝導を実現することが難しく、スピンバルブ比が1~10%と小さいことが大きな問題となっていた。本研究では、ペロブスカイト酸化物(La,Sr)MnO3 (LSMO)を用いて半導体系で得られていた値の10倍以上におよぶ世界最高値のスピンバルブ比(140%)をもつスピントランジスタを実現することに成功した。本成果は Advanced Materials誌に採択された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で得られた世界最高値のスピン流電流変換効率や、酸化物スピントランジスタにおける巨大なスピンバルブ比の実現の成果が、国際的に高い評価を受けている。LaTiO3/SrTiO3界面に形成された二次元電子ガスを利用して、世界最大のスピン流電流変換効率を実現した研究では、強相関金属とスピン軌道相互作用の大きな二次元電子ガス系を組み合わせることで、効率的なスピン流の注入と電流への変換を可能にした。本材料系のスピントロニクス応用の研究は、世界的に全く行われておらず、独自の成果かつ世界的に先駆的な結果と言える。スピントランジスタの研究では、酸化物におけるナノ領域の相転移技術を用いることで世界最高値となる約140%のスピンバルブ比を実現し、半導体では従来困難であった100%以上のスピンバルブ比をを達成した。第一著者である当時修士2年生の遠藤達朗氏は、本研究成果により、米国で行われた国際学会Magnetism and Magnetic Materials2022にて招待講演を行っている。上記の成果は、Nature CommunicationsやAdvanced Mateialsに採択されており、プレスリリースなども行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、ペロブスカイト酸化物(La,Sr)MnO3 (LSMO)を用いて半導体系で得られていた値の10倍以上におよぶ世界最高値のスピンバルブ比(140%)をもつスピントランジスタを実現することに成功したが、アルゴンを照射したナノチャネル部分でどのような現象が起こっているのかまだ明確にはなっていない。チャネル部分の結晶の解析を進め、さらに大きなスピンバルブ比を得るための新規手法を開拓していきたい。 本研究の目的の一つとして、水溶性のバッファ層上にLSMO薄膜を作製して、基板から剥がすことにより磁気的不活性層を低減し、フレキシブルデバイスに応用することを検討している。今年度は水溶性バッファ層の結晶成長技術の開拓を行ってきたが、まだ条件が整っておらず、成長が良好に行えていない。引き続き、成長条件の探索を行いたい。 スピン流電流変換については、強相関金属LaTiO3を中間層とする方法が有望であることが明らかになったが、どのような条件で大きな変換効率が得られるのかは未解明である。今後、系統的に実験を進めることで、解明していきたい。 Ge基板上を用いた微細チャネルスピントランジスタの研究も進めてきたが、本構造においても明瞭なスピンバルブ効果が観測され始めている。さらに素子作製条件を探求することでスピンバルブ比の向上を目指したい。一方、このようなデバイスで30000%におよぶ巨大な磁気抵抗効果が観測されることがあることが明らかになってきた。現在、本現象の原理を調べているところである。継続的に、さらに追究を進めていきたい。
|