研究課題
本研究は、強誘電体中の自発電気分極の集団励起モード「フェロン」の概念をスピンカロリトロニクスに導入し、フェロン輸送現象やフェロンと電子・マグノンとの相互作用を解明することを目的としている。初年度である2022年度は、スタートアップ課題として主に以下の2テーマに注力すると共に、対面形式での全体ミーティングを2回開催し、参画メンバーの連携体制を確立した。① 強誘電体におけるフェロン熱輸送の観測と能動的熱スイッチ機能の実証: オハイオ州立大学と共同で、典型的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛における熱伝導率、熱拡散率、縦波音響フォノン速度の電界依存性を系統的に調べた (Science Advances誌に論文掲載)。これらの物理量はヒステリシスを伴いながら電気分極方向に対して明瞭な変化を示し、実験結果は圧電歪みとフォノンの非調和性を組み合わせた理論モデルによって定量的に再現された。本結果はフェロンが強誘電体中の熱輸送に寄与していることを示す実験的証拠であり、電界駆動型の全固体熱スイッチ素子実現への可能性を拓くものである。② 強誘電体/金属複合構造におけるフェロン-電流相互作用の開拓: 強誘電体上に接合した金属において発現する新しい熱電変換現象「フェロンドラッグ効果」の理論を構築した (Physical Review B誌にLetterとして論文掲載)。フェロンドラッグ効果は、長距離に作用する電荷-電気双極子相互作用を介して強誘電体中のフェロンと金属中の電子との間で運動量が移行されることによって発現する。本現象はフェロン物性とエレクトロニクスとのインターフェースとなる基本原理の一つであり、その基本的性質を明らかにした意義は大きい。フェロンドラッグ効果の観測に向けた予備実験も開始している。
2: おおむね順調に進展している
実験研究者と理論研究者の協働により、強誘電体における熱輸送・熱電変換の物理に新展開をもたらす成果が複数得られており、順調に進展していると判断した。一方で物質・材料研究機構において実験を担当するポスドク研究員の選考に時間がかかったため、2022年度は限られた人員で実験研究を遂行した。2023年4月にポスドク研究員が着任したため、対象とする物質・構造をさらに拡張して研究を加速させていきたい。
ロックインサーモグラフィ法に基づく動的熱イメージング技術を駆使して、・強誘電キャパシタ構造における熱電応答の系統的な評価と起源解明・強誘電体/金属複合構造の作製とフェロンドラッグ効果の観測・マルチフェロイック物質における熱スピン効果の観測とその電界制御を主に進める。時間領域サーモリフレクタンス法を用いて、強誘電体薄膜における熱スイッチ効果の評価にも挑戦する。加えて、本研究において新規導入するナノ・マイクロスケール磁気・誘電・熱物性イメージングシステム (2023年9月納入予定) を早期に立ち上げ、強誘電・磁気物性の局所制御や、ロックインサーモグラフィ法ではアクセスできなかったナノ領域における熱輸送・熱電物性の評価手法を確立する。理論研究としては、Ising擬スピンモデルに基づくフェロンや、フェロンパラメトリックポンピング・有限フェロン拡散長等の現象をもたらす非線形性に関する物理を開拓する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 9件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 107 ページ: L020410/1-8
10.1103/PhysRevB.107.L020410
Science Advances
巻: 9 ページ: eadd7194/1-9
10.1126/sciadv.add7194
巻: 107 ページ: L121406/1-6
10.1103/PhysRevB.107.L121406
https://www.nims.go.jp/mmu/scg/index.html