研究課題/領域番号 |
22H04970
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 将行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70322998)
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研究分担者 |
櫻井 香里 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50447512)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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キーワード | 天然物合成 / 生物活性分子 / 化合物ライブラリー / 構造活性相関 / 活性発現の分子機構 |
研究実績の概要 |
我々は、(1)分子構築、(2)機能向上、(3)分子解析および(4)機能創造の4項目に課題を分割し、多角的かつ総合的に研究を推進している。 (1) タキソール(抗がん薬)の第二世代全合成およびバトラコトキシン(Na+チャネル活性化作用)の全合成を達成した。 28 工程でのタキソールの第二世代全合成経路では、収束的戦略を最適化し、第一世代全合成から 6 工程削減しただけでなく、総収率を 6 倍向上した。バトラコトキシンの全合成は、収束的戦略により22工程で達成した。 (2) ホルボールを含む12種類のチグリアンジテルペンの世界初の網羅的全合成を26工程から34工程で達成した。HIV潜伏感染細胞再活性化試験の結果、強力な活性を有する7種類のチグリアンジテルペンを見出した。ライソシンE(抗菌活性)が有するインドールは酸化的分解を受けやすく、容易に創薬シード化合物としての機能が低下する。そこで、10種類の人工類縁体群を設計・合成した結果、1-ナフタレンを有する人工類縁体では、同等の抗菌活性を保ちながら酸化耐性が著しく向上した。 (3) OSW-1 (抗がん活性)の分子解析の結果、神経細胞においてゴルジストレス応答経路に加えて、オートファジー誘導を標的とすることを初めて見出した。さらに、アリル位にビシナルジオールを有する脂質メディエーターのタンデム質量解析において、新たなフラグメンテーション様式を明らかにした。 (4) 金ナノ粒子上にテトラゾール基やイソオキサゾールを導入したプローブは、従来の光反応基と異なり、標的タンパク質表面に偏在する極性残基を高効率的に架橋できることを見出した。また、タンパク質分解誘導タグであるアダマンチル基やタキソールを種々の組み合わせで修飾した金ナノ粒子を調達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は、10報の学術論文と2報の総説を出版し、25回の招待講演、38回の一般講演を行った。これらの研究成果は国内外から高い注目と評価を得ている。特に項目(1)-(3)において、想定を超える研究の進展があった。 (1) 本提案で標的としている代表的な巨大複雑天然物であるタキソールおよびバトラコトキシンの全合成を実現した。達成した巨大複雑天然物の全合成は、現在の有機分子構築法よりも優位性を有し、巨大複雑天然物の合成の単純化および項目(2)の網羅的全合成の迅速化に寄与する。研究計画調書に記載の天然物群以外の全合成に成功しているため、当初の目標を超える研究の進展があったといえる。 (2) 12種類のチグリアンジテルペンの世界初の網羅的全合成を具現化した。さらに、12個の中からの7個の強力な活性を持つ天然物の発見によって、巨大複雑天然物の創薬シード化合物としての潜在力を証明した。本成果では、12種類の合成で飛躍的な機能向上を果たしたため、世界的に例がない先進的な研究成果である。さらに、ライソシンE の酸化耐性の付与を実現した。そのため、項目(2)では天然物創薬としての想定を超える研究の進展を果たした。 (3) タンデム質量分析における新たなフラグメンテーション様式を明らかにし、巨大複雑化合物の完全構造決定のための基盤データを得た。また、巨大複雑天然物の生物活性の創薬応用への可能性を示した。がん細胞においてオルガネラ機能を制御する新たな指針となるため、想定を超える研究の進展があったといえる。 (4) 新規な反応性を示す光反応基、タキソールやタンパク質分解誘導タグを、金ナノ粒子に高密度に修飾したプローブを種々調達し、天然物・ペプチド医薬・核酸医薬・抗体医薬を超えた新しい分子基盤による天然物の高機能化のための基盤を構築した。そのため順調に研究が進展しており、期待どおりの成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では4項目に課題を分割し、進化的に選択され、優れた生物活性をもつ巨大複雑天然物を、さらに優れた化合物・機能分子へとアップグレードする。 (1) 我々は、創薬シード化合物として有望な10個以上の巨大複雑天然物を標的化合物としている。前年度は、巨大複雑天然物であるタキソールおよびバトラコトキシンの全合成を達成した。本年度は、糖からの革新的な炭素鎖伸長法・分岐法を開発し、ジヒドロ-β-アガロフラン類(抗免疫活性・抗HIV活性)およびエフラペプチンC(抗がん・抗菌・抗真菌活性)を全合成する。 (2) 前年度に、アシル基の構造変換によるチグリアンジテルペン類の生物活性の制御が可能であることを示した。さらなる機能向上を目的として、これまで開発した全合成法を固相合成へと展開し、アシル基をランダム改変した数1000個の類縁体群を網羅的に合成する。また、ハイスループット活性評価を多角的に行い、多様な生物活性を持つ類縁体を創出する。チグリアンジテルペンにおいては、より優れたHIV感染症薬や抗がん薬の創薬シード化合物を得る。 (3) 固相合成ライブラリーで合成される類縁体群は微量であり、従来法での構造決定は不可能であるため、タンデム質量分析を応用する。巨大複雑天然物のフラグメンテーションに関する基盤データを集積する。また、安定同位体を合成化学的に導入することで、フラグメンテーション情報を重層化し、完全構造決定を可能とする。 (4) 前年度までに、巨大複雑天然物であるタキソール、タンパク質分解誘導タグであるアダマンチル基や、タンパク質と効率的な架橋するテトラゾール基などを、金ナノ粒子に自在に表面修飾することを可能にしてきた。本方法論を応用することで、様々な巨大複雑天然物とその他の機能分子を、任意の個数・割合で修飾し、天然物のみでは実現不可能な新しい機能を付与する。
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備考 |
受賞等: 井上将行, 2023年 Allergan Lecturer (University of California, Irvine)・櫻井香里, 2023年 学長特別表彰 東京都教育委員会と東京農工大学との高大接続事業実施に関して・藤野遥, 2023年度 有機合成化学協会 第一三共 研究企画賞・島川典, 第65回天然有機化合物討論会 奨励賞・その他発表賞4件
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