研究課題/領域番号 |
22H04975
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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研究分担者 |
松浦 和則 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60283389)
沼田 圭司 京都大学, 工学研究科, 教授 (40584529)
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (90550236)
高橋 俊太郎 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (40456257)
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (20593495)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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キーワード | 核酸構造 / 細胞内環境 / エネルギーデータベース / 熱安定性予測 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
研究期間の初年度である2022年度は、当初の研究計画に従い、細胞内の時空環境による核酸構造への影響を【知る】研究を中心に遂行した。非標準的なDNA構造であるグアニン四重らせん(G4)構造に関して、高圧力環境下での熱安定性解析を行った。その結果、G4構造の基礎となる積層されたカルテット構造が、構造形成に伴い脱水和を引き起こすことを見出した(Anal. Chem., 94, 7400 (2022))。また、長期的な時間経過を考慮した細胞老化とDNA構造の関連を解析した結果、老化細胞で促進されるDNAのメチル化反応がG4構造によって抑制されることが見出された(Chem. Commun., 58, 12459 (2022))。これらの成果により、G4構造が細胞内の自由水濃度の変動に応じて構造安定性を変化させ、DNAの化学修飾状態を調節している可能性が示された。RNAが形成する高次構造についても、その基礎構造として欠かせないシュードノット(PK)構造の熱安定性解析を行った。PK構造に欠かせないステム領域に焦点を絞り、PK構造からヘアピン構造への変化における熱安定性解析を行った結果、このステム領域の安定性を最近接塩基対モデルから予測可能であることを示す結果を得た(Chem. Commun., 58, 5952 (2022))。本成果は、PK構造に関するSETUPパラメータの取得に重要な知見となる。2022年度はさらに、G4構造に関して、その安定性が生体反応にどの程度影響を及ぼすのかを予測しつつ、G4構造に依存した遺伝子発現を制御するツールの開発を目指し、G4構造に結合する化合物の解析を行い、当初の計画に先行して研究成果が得られた。具体的には、国際共同研究によりルテニウムを配位した新規の金属錯体を合成し、この化合物がG4構造の中でもイス型トポロジーに結合して複製反応を抑制することを明らかにした(J. Am. Chem. Soc., 144, 5956 (2022))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画どおり、2022年度は、細胞内の時空環境による核酸構造への影響を【知る】研究を遂行してきた。例えば、RNAのシュードノット(PK)構造に関して、二次構造領域に焦点を絞った解析を行い、最近接塩基対モデルを用いて二次構造領域の熱安定性予測が可能であることを示す成果を得た。これにより、ループ領域などの高次構造領域がPK構造全体の安定性にどのように影響するのかを解析することも可能となってきている。二重らせん構造については、細胞内の時空環境の変動を考慮し、分子クラウディングの状態やカチオンの濃度が変動した際の二重らせん構造の安定性の解析も進んでいる。特にRNAの二重らせん構造については、最近接塩基対のパラメータを、バルク構造、カチオン相互作用、水和、排除体積効果による安定性の変動に分解して解析し、どのような分子環境においてもRNA二重らせん構造の熱安定性を予測できる一般化されたエネルギーパラメータが得られつつある。また、「研究実績の概要」にあるように、グアニン四重らせん(G4)構造についても細胞内の時空環境の影響を定量して成果を得ている。今後、二重らせん構造と同様に実験的に得られるエネルギーパラメータから物理化学的因子ごとの影響に分解して解析を進めることで、任意の分子環境で非標準的な核酸構造の安定性を予測できるSETUPパラメータを取得できると考えられる。加えて2022年度は、当初の計画に先行してG4構造に結合する新規化合物を合成し、G4構造に依存した遺伝子発現を制御するツールの開発を目指した研究で成果を得た。核酸構造自身をプローブとして細胞内の時空環境を解析する計画については、研究設備(共焦点顕微鏡)が納品され準備が整ったので成果を蓄積していく。このように、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、おおむね順調に研究が遂行できているため、今後も研究計画に従い、 1. 細胞内の時空環境による核酸構造への影響を【知る】 2. 任意の時空環境での安定性を予測できるSETUPパラメータを【得る】 3. 予測した任意の核酸構造の安定性と生体反応への影響との相関を【示す】 の3つの課題を段階的に遂行し、任意の核酸構造の安定性予測に基づき、生体反応に対する影響やその分子機構の定量的な議論を可能にするデータベースを構築していく。 特に2023年度は、二重らせん構造を含め、i-motif構造、グアニン四重らせん構造などの核酸構造について、細胞内の分子クラウディング環境を考慮した共存溶質存在下での解析を継続して行う。また、全反射顕微鏡を活用し、一分子レベルでの核酸構造の動的な挙動に対する細胞内の時空環境の効果を解析する研究も検討する。RNAが形成する高次構造についても、水の活量や排除体積効果の影響を共存溶質の組成で変化させ、SETUPパラメータの取得に向けてそれぞれの影響をエネルギーレベルで算出する。核酸構造自身をプローブとして用いる研究計画については、生細胞内での時空間的な核酸構造の変動を解析する。特定の因子に応答して蛍光シグナルの変化を起こすプローブ核酸を構築し、生細胞内に導入してその蛍光シグナルを解析する。また、当初の研究計画に従い、実細胞に由来する細胞骨格や細胞内小器官、核内のヒストンやリボ核タンパク質等の存在量と空間的配置を維持しつつ定量的な解析を可能にする実験系として、SHELL(System for Highlighting of Environments inside ceLL)を構築する。これにより、細胞内空間での核酸構造やその安定性に対する空間的な影響を、カチオン濃度やpHなどが規定された条件で定量的に解析していく。
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