研究課題/領域番号 |
22H04981
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 康紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (90466037)
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研究分担者 |
内匠 透 神戸大学, 医学研究科, 教授 (00222092)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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キーワード | 空間文脈細胞 / 前帯状皮質 / 記憶固定化 / 場所細胞 / 海馬 / 記憶痕跡 / 光遺伝学的技術 |
研究実績の概要 |
空間文脈細胞の初報となるBota et al.の論文は本申請段階で一旦、原稿が完成していたが、さらにデーター解析を深化させるとともに、SA2の内容であるリプレーにより空間文脈細胞の形成されることを証明する実験を盛り込むことでtop journalを狙いやすくなることから、そちらを優先して行っている。 本研究での一つの主眼は海馬の情報がACCに移行するときにいかなる変容をきたすかという点である。それにあたり空間文脈細胞に着目したが、それはたまたまそういったACCに特異的にそのような細胞があることに気付いたからである。しかし、それを先入観なく変容を追うため、次元削減アルゴリズムtSNEを用いた。海馬CA1神経細胞とACCの細胞の活動パタンをtSNEにて次元削減し、プロットした。さらに個々の細胞について、周囲50個の細胞がACCの細胞であるか、海馬の細胞であるかについて計算した。それにより、ACC細胞のクラスターの検出し、その特有な発火パタンを検出することを試みた。ACC細胞のクラスターの活動パタンを取り出してプロットしたところ、空間文脈細胞と矛盾しないパタンが認められた。他のクラスターもプロットしたところ、ほとんどのクラスターが空間文脈細胞であり、ACCと海馬の大きな差は空間文脈細胞の存在であることが確認できた。 さらに機械学習の一つである「教師あり学習」を用い、神経の発火と行動のデータのサブセット(20%)でデコーダーを訓練し、残りのテストデータで動物の環境を予測した。空間文脈細胞は、海馬やACCの場所細胞よりも有為に正確に文脈をデコードできた。さらに、3つの非常に類似した文脈からも文脈をデコードした。その結果、非常に異なるコンテクストを用いた結果と同様に、これらの空間文脈細胞は、コンテクスト間の類似度が高い場合でも、場所細胞よりも有意に文脈をデコードできることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
空間文脈細胞の研究について、カルシウムイメージングや分子生物学の専門知識を有する研究協力者が、急遽、一身上の都合により退職したことにより空間文脈細胞活動のデコーディングに遅れが生じた。 現在、有能な新たな研究協力者を採用し、空間文脈細胞活動のデコーディングは既に完成している。以上のことから今後は当初計画の通り論文出版も進めることができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
ACC細胞でのLTPの空間文脈細胞形成への必要性を検討するために海馬においてリップル波を自動的に検出し、それと同時に光遺伝学的に神経活動を抑制する予定であった。しかしSteven Middleton助教(2023年着任)の、光遺伝学的抑制より同じ電極に通電する方が手術が容易であるし、ACCのイメージングと同時に行いやすいという意見により光遺伝学的抑制ではなく、電極での刺激を優先することとした。それにより、リップル波で生じた変化が阻害されると期待される。現在Middleton助教がそのシステムを構築し、記憶を解除できるかの検討を行なっている。それが完成したらイメージングを開始する。一方、空間文脈細胞の下流の神経回路を調べる目的で、大学院生のLiがG-CaMPを発現する逆行性AAVウイルスを作成し、脳内各所に注入し、二光子顕微鏡下で観察した。それによるとACC2/3層からretrosplenial cortex disgranular region (RSCd)に投射する神経細胞が報酬に非常に選択的に反応することが分かった。報酬は走行路の途中で与えられる。そのほかにランドマークとなるものはないため、純粋に報酬に対する反応を観察することができる。この細胞は報酬位置を動かしたり、別の空間で報酬が与えられても発火しない。また報酬が1/2の確率で与えると、報酬がなくても発火は観察された。そのため、この細胞はドーパミン神経細胞とは異なり、報酬の有無ではなく、報酬が期待される場所に対して特異的に発火することが明らかになった。そこで、この細胞を光遺伝学的に刺激しつつ舐める行動と走行速度を検出した。すると、舐める行動は起こさなかったが、走行速度が低下した。今後、この細胞が報酬の記憶を担っていくかについての検討を行なっていく。
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