研究課題
ヒト角質層に1,581分子種のセラミドが存在することを見出し,角質層セラミドの全体像の解明に至った。SPTLC3とSPTssBを含むSPT複合体がC20以上の長鎖塩基の産生に関わることを明らかにした。結合型セラミドの分子実体について,in vitroの解析からエポキシエノン型アシルセラミドがシステインと安定な結合体を形成することを見出した。三つの異なった魚鱗癬(IKSHD症候群,常染色体潜性先天性魚鱗癬,シェーグレン・ラルソン症候群)の患者の角質層のセラミドプロファイリングを行い,アシルセラミドの量の減少が魚鱗癬発症の原因となっていることを示唆した。魚鱗癬原因遺伝子LIPNとそのファミリー遺伝子(LIPK,LIPM)を欠損させた三重KOケラチノサイトおよびLipm KOマウスの表皮のセラミド組成を調べ,アシルセラミド量が減少していることを見出した。アシルセラミドの口腔バリア形成に関連して, Elovl1のコンディショナルKOマウスの舌と食道の形態を調べ,舌粘膜上皮の角化亢進と食道粘膜上皮の角化層の平滑化を見出した。α酸化が神経絶縁バリア機能に与える影響を調べるため,脂肪酸α酸化において重複した役割をもつアシルCoAリアーゼ(Hacl1,Hacl2)の二重欠損マウスを作成した。スフィンガジエン型のセラミド,モノヘキソシルセラミド,サルファチドはいずれもFads3 KOマウスで消失した。ELOVL4の顕性変異は魚鱗癬を伴う脊髄小脳変性症34型を引き起こす。これらの変異がELOVL4が伸長する炭素鎖長に影響を与え,結果としてセラミドの鎖長を低下させることを明らかにした。フィトスフィンゴシン型とスフィンゴシン型のセラミドを産生する二機能酵素DEGS2が長い脂肪酸を含有する基質に対して選択的にフィトスフィンゴシン型セラミドへ変換することを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記載した内容はほぼ全て予定通り行った。これらの解析によって,1. ヒト角質層セラミドの全容と長鎖塩基鎖長の多様性創出機構,2. 結合型セラミドの分子実体,3. 三つの異なるタイプの魚鱗癬の患者の角質層セラミド組成,4. 口腔バリア形成におけるアシルセラミドの役割,5. アルファ酸化の生理機能を解明するためのモデルマウス,6. 脳のスフィンガジエン型セラミド/スフィンゴ脂質産生におけるFADS3の役割,について解明/作成または解明の手がかりを得た。交付申請書に記載した内容以上に進捗した結果としては,魚鱗癬症候群の原因遺伝子ELOVL4の顕性変異が引き起こす脊髄小脳変性症34型の分子機構の解明,フィトスフィンゴシン型/スフィンゴシン型セラミドを産生する二機能酵素DEGS2の2つの活性(水酸化酵素活性/不飽和化酵素活性)を規定する基質の脂肪酸鎖長の違いの解明が挙げられる。以上のことから「当初の計画以上に進展している」とした。
長鎖塩基多様性の創出におけるセリンパルミトイルトランスフェラーゼについてはSPTLC3が欠損したヒトケラチノサイトおよびSptlc3 KOマウスを用いて調べる。本年度見出したシステインと結合した結合型セラミドについては従来型の結合型セラミドとの存在割合を調べる。魚鱗癬患者でのセラミドプロファイリングについては他の魚鱗癬のタイプについても実施していく。口腔での透過性バリア形成に関しては,アシルセラミドと結合型セラミドの産生に関わる遺伝子群が口腔で発現しているかを調べる。シェーグレン・ラルソン症候群の発症の原因となるアシルセラミド量の低下に関しては,その分子機構についてセラミド分解経路中間体のヘキサデセナールの関与を検証する。脂肪酸α酸化の生理機能に関しては,Hacl2 KOとHacl1 Hacl2二重KOマウスの解析を行う。スフィンガジエン型セラミドの神経系における役割については,Fads3 KOマウスの解析を行う。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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