研究課題/領域番号 |
22H04992
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊佐 正 京都大学, 医学研究科, 教授 (20212805)
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研究分担者 |
築山 智之 滋賀医科大学, 動物生命科学研究センター, 特任准教授 (60612132)
太田 淳 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80304161)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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キーワード | 機能回復 / 可塑性 / ドパミン / 脊髄損傷 / 意思決定 / 霊長類 / 精神疾患 / fMRI |
研究実績の概要 |
本研究では、非ヒト科霊長類を対象に、(1) 運動機能の障害モデル(脊髄損傷)、そして(2) より統合的な過程にあたる意思決定の障害-依存症モデル(前頭葉におけるドパミン神経の過活動)、さらには(3) 精神疾患関連遺伝子欠損モデルを作製し、障害の神経機構を明らかにしつつ、訓練と中枢刺激と薬物を併用して、回路特異的に大規模な可塑性を誘導することによる治療戦略を開発することを目指している。2023年度は、(1)においては訓練と経頭蓋磁気刺激法を組み合わせることで、通常は上肢の到達把持運動がほとんど回復しない中部頚髄亜半切モデルにおいて1-2か月で粗な到達把持運動の回復をみた。また、サルにおいて冷リンゲル液での潅流後迅速に脳を取り出し、凍結することで、RIN値の高いsnRNA seq解析に適した質の高い脳サンプルを得ることができるようになった。(2)については、腹側被蓋野から前頭葉6VD野への投射線維を光遺伝学の手法によって選択的に刺激することでサルの高リスク高リターン選択傾向を減弱させられることを見出し、その傾向を高める傾向のある6VV野と対象的であることを示せた。その際の前頭葉の脳活動から意思決定をデコードできることも示すことができ、それらを合わせてScience誌に投稿し、無事受理、発表に至った。(3)については、Disc1KOサルからiPS細胞を誘導し、それらからさらに神経細胞を誘導し、培養10日目でトランスクリプトーム解析を行ったところ、複数のミトコンドリア遺伝子の発現が増強していることを見出した。また、安静時MRI計測による脳領域間結合性を調べたところ前頭葉と頭頂葉、前頭葉と側頭葉の間の結合性が低下していることも見出した。またヒト侵入者テストと呼ばれる社会性検査でヒトに対する興味の減弱を観察した。このようにpsychosisの症状が次第に現れてきていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマ(1)の脊髄損傷プロジェクトでは、以前の皮質脳波電極を用いた脳刺激による可塑性誘導の代わりにより非侵襲的な経頭蓋磁気刺激法で代替できることにほぼ成功したことから、今後この方法によってより簡便に大規模可塑性を起こしているサルの運動野の遺伝子発現解析が順調に進むと考えられる。(2)については、中脳ー前頭葉ドパミン作動性投射経路がリスク依存性の意思決定に関与することを証明できた。(3)についてはDisc1 KOサルが3歳を超え、次第にpsychosisの表現型を示し始めていることが確定してきた。そこで、より多様な認知行動課題をテストすること、fMRIの安静時結合をより詳細に行うこと、さらにiPS彩桜から誘導した神経細胞や脳オルガノイドの遺伝子発現や機能解析を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)の脊髄損傷プロジェクトにおいては、頚髄亜半切後のサルで損傷直前に運動野に順行性ウイルストレーサーを注入し、経頭蓋磁気刺激と訓練の組み合わせで手の運動機能に回復が見られた段階で組織標本を作製し、どの時点で大規模可塑性が起き始めるかを検討する。(2)についてはRecurrent neuron network modelを用いて、中脳腹側被蓋野から前頭葉への投射系がリスク依存性意思決定を調節するメカニズムに関する数理モデルを構築する。(3)については、眼球運動野意思決定課題など複数の認知課題をテストし、Disc1 KOサルの認知行動の特徴を抽出するとともに、安静時fMRIによる脳領野間結合性の解析をより詳細、高度化させるとともに構造MRIによって脳の各領野のサイズが変化していないかを解析する。またiPS細胞から分化誘導させた神経細胞の遺伝子発現解析をより長期間の培養細胞で試すとともに生理学的、細胞生物学的解析を深化させる。また大脳皮質オルガノイドも誘導し特徴を解析する。そしてこれらを統合することでDisc1 KOサルの表現型をより明確に理解し、psychosisのどのような部分を示しているかを理解する。
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