研究課題/領域番号 |
22H04993
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 佳宏 九州大学, 医学研究院, 主幹教授 (70291424)
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研究分担者 |
馬場 健史 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (10432444)
諸橋 憲一郎 九州大学, 医学研究院, 主幹教授 (30183114)
馬越 洋宜 九州大学, 医学研究院, 助教 (40741278)
小川 誠司 京都大学, 医学研究科, 教授 (60292900)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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キーワード | 副腎 / 副腎腫瘍 / ステロイドミクス / 統合オミクス解析 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
2022年度はアルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA)の前駆病変とされているアルドステロン産生細胞クラスター(aldosterone-producing cell clusters: APCC)の構成細胞の同定を試みた。in silico解析により、APCCが球状層細胞から形成されることを明らかにした(J. Clin. Endocrinol. Metab. 107: 2439-2448, 2022)。研究分担者との共同研究により、チアノーゼ性先天性心疾患に合併した褐色細胞腫/パラガングリオーマとその前駆病変である副腎髄質過形成領域の全エクソン解析を行った。解析した7症例の全てにおいて、機能獲得型のendothelial PAS domain protein 1(EPAS1)遺伝子(HIF2αをコードする遺伝子)の体細胞変異が検出された。若年発症例の副腎髄質過形成領域においてもEPAS1遺伝子変異を伴うクローン拡大が観察され、低酸素環境下では副腎髄質のクローン構造が大きく変化し、EPAS1遺伝子変異を獲得したクローンが若年時に強力に選択されること、選択されたクローンが最終的に褐色細胞腫/パラガングリオーマに進展することが示唆された(J. Clin. Endocrinol. Metab. 107: 2545-2555, 2022)。副腎由来ホルモンの不均衡に関する研究では、コルチゾール産生腺腫(cortisol-producing adenoma: CPA)では、骨粗鬆症と動脈硬化が高頻度で合併すること、CPAでは骨量の減少ではなく骨質の劣化による骨粗鬆症と動脈硬化が関連することを明らかにした(Bone Rep. 17: 101610, 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床症例・検体を用いる臨床研究: 1)APAと褐色細胞腫の前駆病変は既に報告されているが、CPAの前駆病変は同定されていなかった。研究代表者らは最近、CPAに付随する萎縮した副腎皮質組織において、束状層様細胞と網状層様細胞の2層構造を呈するステロイド産生結節(steroid-producing nodules: SPN)とも言うべき組織病変を見出した。ゲノム解析によりCushing症候群のドライバー遺伝子であるGNAS遺伝子の体細胞変異を同定した。以上により、新規に見出したSPNがCPAの前駆病変であることが示唆された。2)若年者と高齢者の正常副腎皮質組織の免疫組織学的染色により、高齢者では副腎皮質3層構造の連続性が破綻し、皮質3層特異的なステロイド産生細胞が機能的に変容することを予備的に見出した。3)CPAでは従来、単一のステロイドホルモンであるコルチゾール産生量のみが骨粗鬆症と関連すると考えられていたが、研究分担者との共同研究により独自に開発した網羅的ステロイドミクス解析を用いて、CPAの腫瘍組織部分あるいは非腫瘍組織部分に由来するミネラルコルチコイドあるいは副腎アンドロゲンの中間代謝産物の多寡が骨粗鬆症のリスクになることを臨床的に明らかにした。 動物実験・培養実験による基礎研究: 4)外因性ステロイド投与は様々な疾患の治療に使用されている。一方、長期のステロイド投与は副腎皮質機能低下をきたすが、その分子機構は不明である。研究代表者らは、デキサメサゾン投与マウスを用いて、副腎萎縮にはACTH分泌抑制に伴う副腎皮質細胞の細胞死が関連することを明らかにした。研究分担者はマウスの性差が副腎のサイズや機能に大きく影響することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
1)研究代表者らが新たに同定したSPN結節内において、機能的に異なる不均一な細胞集団が腫瘍化にどのように関与するのかを解明するために空間トランスクリプトーム解析を施行する。SPNにおける網状層様細胞においてマクロファージが集積しており、炎症・貪食の亢進が示唆されるため、SPNを対象としたシングルセルRNAシーケンス(scRNA-Seq)解析を施行し、網状層様細胞と免疫細胞の細胞間相互作用機構を検討する。培養実験においてSPNと同一の変異部位を有するGNAS変異を導入し、網状層細胞の発生・維持に必須である蛋白キナーゼA(PKA)経路の活性化と様々なシグナル伝達経路の相互作用を検討する。動物実験ではGNAS過剰発現マウスを用いて、PKA経路の活性化による副腎皮質組織の層構造・ホルモン合成能、細胞増殖・分化を検討する。 2)加齢に伴う層構造の破綻の分子機構を解明するために、若年者と高齢者の正常副腎皮質組織を対象として空間トランスクリプトーム解析を実施する。同一症例に対してscRNA-seq解析を併用し、加齢に伴う細胞機能の変容をもたらすシグナル伝達経路の同定と破綻に関連する細胞集団を同定する。空間トランスクリプトーム解析により皮質3層構造の連続性が破綻している部位を中心にレーザーマイクロダイセクションにより核酸を抽出し、3層構造の破綻とゲノム変化の関連を検討する。 3)副腎皮質は3層別に細胞機能が大きく異なるため、マウス副腎組織の構成細胞(皮質球状層・束状層、髄質)を高純度に単離する実験プロトコールの確立を進める。マウスでは副腎皮質のサイズに明らかな性差が認められるため、副腎皮質の機能的不均一性おける性差の影響とともに副腎外の臓器の性差との関連を検討する。
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